ハリーとメーガン離脱からみる英米の違い

海外経験豊富な元国連専門機関職員の@May_Roma(めいろま)さんは、ハリー王子とメーガンのイギリス王室離脱は英米の歴史と文化の違いを象徴していると述べます。

イギリスのメディアは連日ハリーとメーガンの離脱騒動だらけで、イラクもイランもどうでもいいという感じですが、個人年金や資産を株式市場で運用しているお金大好きなイギリス人が、ここまで中東問題を無視して王室ばかり追いかけるのは異常事態です。

Brexitもすっかり忘れてしまった人だらけです。

この件、このカップルが王室を激おこさせているわけですが、アメリカとイギリスという二国の違いを明らかにしている点で注目すべきであります。

この辺は、私の新著である世界のニュースを日本人は何も知らない (ワニブックスPLUS新書) でも説明していますが、日本では海外事情が詳しく報道されませんのでなかなかわかりにくいところであります。

まずアメリカの報道は、メーガンは王室の人種差別があったために、夫婦は自分達を守るために離脱を決断した、大変勇気がある行動だ、というものです。

ところがイギリス側のメディアや一般大衆の意見は全く違います。

これは両国の文化と歴史の違いを知っていればよくわかります。

イギリス的には今回の件は人種差別が問題ではなく、彼らの数々の行動が問題です。

これはイギリス人を知っていればよく分かること。

イギリス人の怒りのポイントというのはアメリカと違います。

以下そのポイントを説明しましょう

1. 公共財の乱用

「公共財」とは税金で維持されている知的財産や物理的財産のことで、これは日本では理解されづらい概念です。

「公共財」というのはイギリスでは特に重要な概念で、イギリスからアダム・スミスなど近代経済学の基礎を作った学者たちが、理論の中で「Public」(公)という概念を多用しているように、社会の統合的な資産は、社会に還元されなければならないという考え方があります。

例えば公園、公道、共有地、博物館、公的な美術品など。みんなから集めた税金を使って維持しているもののことです。要するに「みんなのもの」という意味です。

こういうものは「みんなのもの」ですから、乱用すると枯渇してしまいます。例えば公園を多数の人がひどい使い方をしたら芝生は剥げてしまうし、ゴミも山盛りになります。これを「共有地の悲劇」(Tragedy of the Commons)と呼びます。

要するに、限りある資源や、みんなが一生懸命働いて築き上げたもの、お金を出し合って大事にしているものを独り占めすることは許されませんよ、ということです。

イギリスは税金が高いのですが、美しい景観、美しい公園、共有地の維持には必要なので仕方がないと払っている人が多いのです。個人の自由をある程度我慢して社会を維持しましょうという考え方が根底にあります。

社会全体が栄えれば自分にも見返りがあるからです。

公共の場を清掃したり列に並ぶことを当たり前だと思う日本人ならよく分かる考え方ですね。

公共財の維持には大変な労力がかかりますし、税金が高いので「みんなのもの」を独占して私欲を肥やすのは大変嫌われるわけです。

例えば共有地で勝手にお祭りをやってお金を稼いだら怒られますよね。

王族は私有財産を持っていても警備費や建物の維持には税金が投入されているので、その地位や肩書は「みんなのもの」です。ですから王族の公共活動、ブランドイメージなども広義の意味では「公共財」です。

「公共財」なのですから、王室というブランドは、「みんなの国」であるイギリスが栄えるように、海外に対して効果的な活動をしたり、人々を勇気づけるような非営利活動をやらねばなりません。

それが王族が高額な警備費用や生活費を支払われ、私有財産を維持できる根拠です。

ところがハリーとメーガンは、「みんな」の承認なしに「公共財」であるはずの王族の肩書を勝手に商標登録し、個人的に販売するグッズを準備してしまった。

それを一年も前からやっていたのです。結婚してまだ一年もたっていないのにです。

さらに王族という肩書を使って自分をディズニーの社長に売り込み声優の仕事をゲットしました。これは「公共財」を使って特定の民間企業へ利益供与したことになりますし、報酬は寄付するにしてもディズニー側は広報的に莫大な利益を得ることになります。ディズニーはアメリカの会社で民間企業ですからイギリスには全く関係がありません。

さらにこの売り込みはハリーが自ら、ライオンキングの試写会で行いましたが、彼は自分が名誉職を勤める王立海兵隊のIRAテロの犠牲者の追悼式をぶっちしてしまいました。

海兵隊は市民を守るために命を犠牲にしてIRAのテロと戦いました。市民も犠牲になりましたから、遺族は大変な衝撃を受けました。

彼らにはIRAテロの犠牲者よりもディズニーが重要だったのです。

これを日本で例えた場合、皇室メンバーが東日本大震災で亡くなった方の慰霊祭を無視して、中国のアニメ会社に自分を声優として売り込むのと同じです。儲かるのは中国企業で納税者である日本国民には全く見返りがありません。ないどころか、公的な役割を特定企業に使うことで癒着が疑われ、日本国のイメージを激しく損なうでしょう。遺族は見捨てられたような気分になるでしょう。

つまりハリーとメーガンは、自らの義務を放棄して、公共財である王室ブランドを独り占めしようとしている実に自分勝手な人々であるということです。「みんな」への奉仕を放棄しているわけですから、「公共財」を使う権利がないにも等しいのです。

2.越えてはならない一線がある

2点めには、イギリスにも日本と同じく社会的な「お約束」があります。

それはある線は越えてはならないこと。

それは女王様に無礼な振る舞いをすること。

反権威であるイギリスのHR/HMバンドが、女王だけはネタにしないことからよくわかります。

パンクバンドのセックスピストルズは、女王を抽象する曲を発表しました。ユーモアセンスは皆無で「女王は人間じゃない」と揶揄。これに対し普段は反権力思考の人々も眉を潜め、メンバは殺害宣告を受けて一部はアメリカに移民しました。

普段は王政に大反対なリベラルな家の庭でさえ彼らのレコードが足で踏まれて燃やされました。これは私の家人が子供の頃に近所で実際に起こったことです。

でも当時家人や近所の子供はBlack SabbathやIron Maidenは聞いていて誰も咎めなかった。キリスト教批判はOKでも女王の中傷は許されないのです。お笑い番組でも王室はネタにはなりますが、あくまで「いじり」であって中傷はされません。

ところがハリーとメーガンは今回女王に全く相談せずに、インスタグラムで独立宣言をしてしまった。これは女王の権威を土足で踏みにじったのと同じです。彼らはセックスピストルズよりもひどいことをしたと言えるでしょう。

米が日本の占領政策の際に天皇を死刑にせず天皇制を維持したのは軍と政府が日本を熟知した文化人類学者、歴史学者、心理学者、政治学者の意見を聞いたからです。当時の記録を読むとわかります。

日本人にとって天皇制は文化であり大変重みがありますが、イギリス人にとっての王室も同じです。

日本で同じことをしたら凄まじい非難の声が上がるでしょう。

次の記事ではその他のポイントをご紹介します。

ケイクス

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May_Roma

海外居住経験、職業経験をもとに、舌鋒鋭いツイートを飛ばしまくっているネット界のご意見番・May_Romaさん。ときに厳しい言葉遣いになりながらも彼女が語るのは、狭い日本にとじこもっているひとびとに対する応援エールばかり。日本でしか生き...もっと読む

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May_Roma 海外経験豊富な元国連専門機関職員の @May_Roma(めいろま)さんは、を象徴していると述べます。 https://t.co/O52QQV9vvI 約5時間前 replyretweetfavorite

May_Roma 海外経験豊富な元国連専門機関職員の @May_Roma(めいろま)さんは、を象徴していると述べます。 https://t.co/O52QQV9vvI 1日前 replyretweetfavorite

Mizuki_w0v0w 殆どの日本人なら、天皇家と重ねられる感覚だと思う。: 1日前 replyretweetfavorite

AOKI_KC 英国と米国の〝激おこポイント〟の違いがとても分かりやすく解説されている。日本を覆う空気はきっと英国に近い…> 1日前 replyretweetfavorite