あなたの額に銃口を向けた「リボルバー」

昨年11月、KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」とnoteが開催した「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテスト。通勤や通学の合間にスマホで手軽に読めて、おどろきや発見があるショートストーリーがたくさん集まりました。本連載では、このコンテストで受賞されたクリエイター10人の作品を順にお届けしていきます。
本日は、グランプリを受賞されたあめ(あめじろう)さんの「リボルバー」です。

「リボルバー」/あめ(あめじろう)

 一年ぶりに出した石油ストーブの光は、あの日、私達の影を浮かばせた夕陽とよく似ている。

 二人きりで下校するのが初めてだった私達は、緊張で何も話すことが出来なかった。足元から伸びた影に引きずられるように、私達は並んで歩いていた。何も話せないならせめてと、あなたの左手の影に、私の右手の影を重ねて、影だけは恋人同士にさせていたっけ。

 あれから二十年。

 私が石油ストーブの光に目を細めている間、あなたは手にしたスマートフォンの光に目を細めている。

 そんなあなたの隣で、私は切りすぎた前髪を人差し指で弄んだ。前髪に触れる指先には、美しいネイルが施されている。前髪はこまめに自分でカットしているから、気づかれなくても仕方ない。だけど、ネイルをしたのは数年ぶりなのである。それでも気づかれない哀れな指先。私はその指先で、ベランダの窓を開けた。

 開け放った窓からは、ネイルと同じ色に滲む朧月が見えた。部屋に吹き込む冷たい風に、あなたは身震いをし、窓を閉めるようにと私をちらりと見た。口を開くのも手間なのだと気づいた瞬間、私は覚悟を決めた。

 あなたの額が好きだった。困った時に浮かぶ皺が好きだった。だからあなたの額に向けたのである。朧月に染まる銃口を。

 人差し指の指輪はシリンダー。あなたが初めてプレゼントしてくれたもの。くるりと回し、弾丸を詰め込む。額に狙いを定め、引き金を引く前に尋ねた。

「言い残すことはないですか」

 ようやく状況を理解したあなたは、スマートフォンから顔を上げる。あなたの視線が私にまっすぐ向けられたのは、一体いつぶりだろう。ようやくあなたと再会できたような心地がした。そこには、あの夕焼けの帰り道、隣にいたあなたがいた。

「前髪、切ったんだね」

「他には」

「ネイルもきれいだよ」

 リボルバーはエプロンにしまった。

 今日はあなたの好きなハンバーグにしようと思う。


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※明日は、同じくグランプリを受賞された、しのぶのさんの「選択支援指輪型人工知能」を掲載します。


この連載について

一駅ぶんのおどろき

cakes編集部

昨年11月、KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」とnoteが開催した「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテスト。通勤や通学の合間にスマホで手軽に読めて、おどろきや発見があるショートストーリーがたくさん集まりました。本連載では、こ...もっと読む

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