リアル障害者VSリアル中学生

えっ。結末を迎えたのに、また記事が出た?と思った方。まだまだ「障害マストゴーオン」をご紹介したいので、お付き合いいただけると嬉しいです。今回は、福本さんが中学生とともに取り組んだ、防災授業について。福本さんいわく「阪神淡路大震災の時、神戸の街は壊滅状態となり、大阪でも地面がわれた。建物の一部にひびが入った。当時のことを少し思い出していただけたらと。災害も決して他人事じゃないはず。私はこの冬も防災授業に取り組みました。どっきどっきの異文化コミュニケーションです。が、この文章を書いたこの時は私もまだ若かったなー」とのこと。
今週金曜日で、阪神淡路大震災の発生から25年が経ちます。改めて、防災について、ともに地域に生きるいろいろな人とともに、災害から生き延びることについて、考えてみたいと思います。


ゆめ風基金で、入職当初から関わっていたイベントの一つに、中学校に出向き中学生と避難訓練をする「いのちと防災を考えるゆめ風中学生プロジェクト」があった。学校との打ち合わせや障害者講師の派遣は、私が理事をさせてもらっている「おおさか行動する障害者応援センター」がおこなっている。大阪盲ろう者友の会「手と手とハウス」さんにも毎年ご協力いただいている。子どもたちとの出会いは「障害者と健常者の溝」を埋めるたくさんのヒントになる。退職後も、時間と体力が許す範囲で、この活動には参加させてもらっている。

中学生は恐れ知らず。失敗するからすごい力を出す!

初めて中学校に招かれた時、生徒さんに靴箱で出会い頭、「うわっ、リアル障害者!」と驚かれた。私は、うわっ、これが今時のリアル中学生と?と逆に驚いたが、あの頃はとっさに切り返す大きな声が出せた。「バーチャルと違うでー。ホラー映画の貞子とも違う、ちなつやでー」生徒は一瞬きょとんとして、はにかむように笑った。十四歳の彼と心が交わせた気がした。


事前学習では、自己紹介をかねて障害者としての生きざま(なんて私にはないのだけど)、加えて避難訓練の注意事項や障害に合わせた介助方法を話す。教室に入った瞬間のあの緊張感は、ずっと変わらない。言語障害のある私は、カンペやプラカード、板書、ジェスチャーを交えての授業。年々伝言ゲームのようになっていくが、先生や生徒さんの笑顔や驚きをヒントに異文化コミュニケーションを楽しんでいる。

私がマスクをして、中学校を訪問した時のこと。教室に入った瞬間、思い立った。そして黒板に大きく書いた。

一、風邪

二、ギョウザ

三、感染

「はい。みなさん、はじめまして! 突然ですがクイズです。今日、私がマスクをしている理由は?」持ち時間は二十分なので、一瞬で教壇に集中させたい。マスクを右手に持ち、頭の上で振った。「はい、マスクはなんで? 三択! 風邪だからマスクをしていると思う人、手を挙げてください」手振り身振りも加えて必死で呼びかける。「風邪かな〜」と言いながら大半の生徒の手が挙がる。「はい、昨日私はギョウザを食べてにおうからだと思う人は?」これには笑いながら、「はい」と二人の手が挙がる。「では最後。えー、私の障害が空気感染するからだと思う人は?」なに食わぬ顔で聞いてみると、その答えを選んだ生徒さんが一人いた。

この時の訪問は福島原発事故のあとで、空気感染と言われていじめられている子がいると、他校の先生から聞いたばかりだった。後ろで見守っていた先生が心配そうな顔をする。「すっ、すごい! あなたはみんなの前でたった一人の自分の意見が言える。でも、正解は二番のギョウザでした。おばさんの障害は脳性まひという名前がついていて、空気感染はいたしません。安心してください」

「ギョウザやったんや!」その生徒は驚く。「そうそう、人の話は聞いてみないとわからんもんでしょ。だから......」避難訓練時の注意事項へと話を移す。「以上に注意して、避難してくださいね。で、勇気あるあなた、いつかおばさんと握手をしていただけたらうれしいです」と授業を終えた。

すると、「いつ握手してくれるんですかって言うてはる」微妙にニュアンスが違う女の子の通訳が入る。「そっ、そんなこと言ってないよ。大人になって機会があればの話です」私は戸惑い、教室を出ようとした。そこに、「感染」に手を挙げた子が私の前に立ち、照れくさそうに手を出してくれている。

「うわ」私のほうがビビッてしまったが、恐る恐る曲がった左手の人差し指一本だけを出す。彼はそれを両手でしっかり握ってくれた。子どもの心は広く、頭は柔らかい。この人差し指一本の握手体験が、私を毎年「中学生プロジェクト」の教壇に立たせていたのかもしれない。

夫が教壇を最期の生き場所にした理由も、息子が教師としてがんばっている姿も想像できる。とはいうものの、リアル中学生との出会いは落ち込むこともあった。教室では良い子を演じているが、教師の目がない廊下で私を真似る子に出会うことも。

「君、ええ根性やん」そう言う私に気づいてもなお、五人ほどの生徒の前で、さらに首を振り、顔をゆがめて真似る。彼の勘違いした英雄の瞳が輝いた瞬間、私は大人の誓いを立てた。売られた喧嘩はきっちりと買おう。もしこれでこの場を去るのなら、私は今日ここにきた意味はない。

全校生徒が集まる体育館に到着後、彼の姿を探し出し、「君にお願いがあります。私のものまねのうまさ。すばらしい! みんなの前でもう一度さっきみたいに真似してください」車いすに座ったまま、足こぎで詰め寄り、逃げる彼を体育館半周ほど追い回した。「なにかあったんですか」教師が飛んできた。「彼に聞いてください」

黙ったままの彼の顔を私は覚えている。六年前、私もまだ元気だった。時が経ち、彼は去年成人したはずだ。一度しか会わないよそ様の子どもと「障害者と健常者の溝」を一緒に渡る元気が、私の中にまだ残っているだろうか?

この連載について

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障害マストゴーオン!

福本千夏

脳性まひ者の福本千夏さん。 50歳にして就職して、さまざまな健常者と関わる中で、感じた溝を語ります。

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コメント

Chuck_euoni 切り返しがすごい。さんまさんの母子家庭の話を思い出したけど、上手く鋭く返すことって難しいもの 4日前 replyretweetfavorite

hikarikkkkk これは。 4日前 replyretweetfavorite

bud_a_yuba また感動してしまった↓ 4日前 replyretweetfavorite