「保育園を始める前は、黙っていても待っていれば園児は集まるものだと思っていた」と元認可外保育園の園長は話す。
彼女は東京都世田谷区で認可外保育園を開いたものの、周囲で新規園が次々と開設。認証保育所(都の認証を受けた認可外保育園)も空きが出始めた結果、園児が思うように集まらず、1年で閉園してしまった。待機児童が多くいる地域だからといって、経営がうまくいくとは限らないのだ。
保育園は、認可・認証を受けていない園以外、国の補助金や助成金などによって経営が成り立っている。給付金の金額は公定価格で決まっており、基本額は保育する園児の数と年齢で決まる。単価は0歳児が最も高いが、保育士も0歳児3人に1人を配置する必要がある(認可保育所の場合)。保育園が受け取る補助金には給食費や地代なども含まれるが、人件費が8割前後を占めるといわれており、保育者(保育に従事する職員)の頭数に経営が大きく左右される。
つまり、園児が定員まで埋まり、配置基準を満たすだけの保育士を確保すれば、赤字にならない仕組みになっている。
ところが、大都市、特に都内では空前の保育士不足が起きている。待機児童対策で急激に保育施設を増やしたものの、国家資格である保育士の養成機関は限られているからだ。配置基準を満たすために保育士の獲得競争が起き、有効求人倍率は2017年には都内で平均5.18倍、ピーク時は約7倍にまで跳ね上がっている(下図参照)。
この保育士獲得競争で割を食っているのが認証保育所など小規模な認可外保育園だ。東京大学内の認証保育所の運営に携わる同大学院総合文化研究科教授の瀬地山角氏は、「保育士不足のため園児が定員まで集まらない状況が続いている。ここ2年で赤字に転換し、継続が苦しい状況だ」と憂慮する。子どもを預けたい人がいて預け先に空きがあっても、保育士がいなければ保育園の運営は成り立たなくなっていくのだ。
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