Photo by Y.S.
福岡市に本社を置き、九州を中心に全国約200店舗を展開するトライアル。地元の買い物客にとっては激安型のディスカウントストアだが、小売業界では「国内で最も進んだリテールAI技術を持つ企業」として知られる。
小売業向けシステムを開発するIT企業として1984年に創業し、「ITで小売りを変える」(永田久男会長)ために小売業に参入。米ウォルマートのモデルを取り入れ出店を拡大してきた異色企業だ。トライアルが覆した小売業界の数々の常識。そこには、コンビニ問題への解決の糸口が隠れている。
【常識1】
店舗運営は人力・経験・勘頼り ▶ AI投入でもっと効率化できる
2018年8月。福岡市にあるトライアルアイランドシティ店の生理用品売り場で、ある実験が行われていた。ユニ・チャームと共同で実施した実験の目的は、「商品補充が少なく、かつ売り上げを伸ばす売り場づくり」だ。
POS(販売時点情報管理)データを基に、売れない商品を売り場から取り除き、売れる商品だけを残す、ということはコンビニなどでもよく行われる手法である。
だが、単純に売れ筋の売り場を増やすだけでは、店舗はうまく回らない。限られた面積の売り場に何をどのくらいそろえるかは、結局のところ、発注を担当する店員や本部社員の経験と勘に基づいて行われるのが実態だ。
予想が外れると欠品や売り場での頻繁な補充作業が、余った場合は廃棄ロスが発生する。
この実験では、過去の顧客ごとの購買データ(ID-POS)を使い、現在棚に並んでいる商品の中で、カットしても他商品で代替できるものをAI(人工知能)で絞り込んだ。
ここにはアマゾンでお薦め商品を提案するときに使われるのと同じ、「協調フィルタリング」と呼ばれる手法が使われている。
さらに、売り場に設置したAIカメラを使い、店頭での品物の実際の動きを1時間ごとに定点撮影して、リアルタイムに近い形で欠品状態を把握。絞り込み前と後で状況を検証した。
結果は驚くべきものだった。実験ではSKU(最小在庫管理単位数)を23%も減らしたにもかかわらず、売り上げは実験前の3%増。利益も9%上がった。さらに、2.3%だった欠品率が0.35%へと改善した。
前回に登場したレジカートも売り場の改善で活躍している。調べるのは、購買データからは把握することができない、店内を動き回る顧客の動線だ。
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