人手不足問題の解決策として注目が集まるコンビニの24時間営業の見直し。だが、営業時間の短縮によって収益が落ちるという懸念が、本部や加盟店に二の足を踏ませている。
24時間営業をやめて「時短営業」にすればどうなるのか。本誌は複数の加盟店オーナーの協力を得て店の決算書を入手。時短営業の影響を独自に試算した。
まずは業界王者のセブン-イレブンの店舗の損益計算書から見ていこう。下表・上は、増田敏郎さんがオーナーを務めるセブン八王子万町店の2018年度の12カ月分の損益計算書をまとめ、1カ月の平均値に直したものだ。
日販は68.2万円。セブンの全店平均日販の65.6万円よりも高い。粗利は約686万円で、これを本部と加盟店で分け合う。本部のロイヤルティー料(セブン-イレブン・チャージ)は約355万円なので、残る約331万円が加盟店の取り分。ここから人件費などの店舗運営に掛かる費用を支払い、残った金額が店の利益となる。
支出の項目を見ていくと、最大の支出は約195万円にも上る人件費だ。この負担を少しでも軽減したいがために、加盟店は時短を求めているのだ。
コンビニ会計特有の支出が「廃棄ロス」の項目。消費期限が切れた商品の廃棄に伴う損失で、加盟店の負担になる。留意したいのは、増田さんの店は「見切り販売」(消費期限直前の商品の値下げ)を実施しているため、約12万円という廃棄ロスの額は大多数の店舗よりも少ない点だ。「廃棄ロスは50万円を目指しましょう」と本部に指導された加盟店もあり、見切り販売をしない店舗ではこの額が膨らむ。
また、水道光熱費は約4万円だが、セブンでは8割を本部が負担する仕組みになっている。一般的なコンビニの水道光熱費は20万~40万円程度とされ、チェーンによっては負担が増える。
夜間従業員多い加盟店にメリット
減収幅は本部が大
実店舗の損益計算書を把握したところで、時短営業した場合の影響を試算していこう。
セブンやファミリーマートの時短実験では、営業時間が16~20時間の複数のパターンを検証する計画だ。今回は午前0~5時に閉店し、19時間営業になるという前提で1カ月の収支を試算した。
複数のオーナーの証言を総合すると、深夜のこの時間帯の売上高は1日の売上高の5%程度。増田さんの店では1日約3万円で、夜中に出歩いている若者や、トラックドライバーなど、たまたま通りかかった客が中心だという。
ところが、本部側は深夜に閉店すると、その前後の時間帯の客足も遠のき、近隣の競合店との競争力が下がるため、最低でも売り上げは1割落ちると強調する。
そこで、本部の主張である売上高が1割減ったものと、オーナーの店で実際の深夜売上高が減ったものとの二つのシナリオについて試算した。
店の収入への影響のポイントは、24時間営業の“ボーナス”であるチャージ率の2%減額がなくなることだ。時短営業により、売り上げ減とチャージ率アップのダブルパンチが加盟店を襲い、店の取り分は26万~45万円ダウンする。
一方、支出面では、深夜に勤務していた従業員2人の5時間分の人件費37万円が浮く。
ちなみに、水道光熱費は、「商品の冷蔵装置など大半の設備は稼働したまま。夜間にLED照明を消すだけでは電気代はほとんど変わらない。水道代は昼間のトイレ利用客の影響が大きく、深夜に閉店しても下がらない」という現場の声を尊重し、今回の試算では省略した。
収支を総合すると、売上高が1割落ちると本部も加盟店も減収になるが、実際の深夜売上高3万円が減少するシナリオでは、店の収支は約11万円のプラスになった。
同種の試算を、ファミマとローソンの加盟店で実施した。すると、関東地方のあるファミマの店舗(日販約54万円)では、興味深い結果が出た。
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