ベンツやBMWなど、高級外車の中古車が並ぶヤナセブランドスクエア浦安。2006年2月にオープンし、およそ80~100台の中古車を常時展示している店舗だ。
課長代理の井出俊之さんは、営業歴18年半のベテラン。最初の10年は新車を、後半の8年半は中古車を販売してきた。ヤナセ全社で今期の中古車営業のトップ成績を誇る凄腕営業マンだ。

終始安定した声のトーンとスピードで淡々と、しかし適度に暖かい雰囲気を醸し出す井出さんは、相手を非常に居心地よくさせる。
営業スタンスはかなり前向きだ。「お客様だって忙しい中、時間をつくってご来店されたはず。いい車を買って帰って頂かないと申し訳ない」と話す。新人の頃は「高額な買い物だから、簡単に買って頂けるわけはない」と思っていたというから、大幅な意識の転換だ。
井出さんが安定感あふれる堂々とした佇まいでいられるのは、会社と自分の強みを明確に認識できていることから出てくる自信があるからだ。
「いろいろな中古車販売店がありますが、ヤナセほど商品をきれいに保ち、自社工場で完璧に整備をしている会社はない」(井出さん)。価格を安いとほめられたことは一度もない。しかし、品質に関しては他社の追随を許さないとの自負がある。
そして、井出さん自身はお客の思いを徹底して聞き、要望に沿う中古車を提案する知識を磨いてきた。例えば「燃費が悪いんじゃないの?」という質問をよく受けるが、車種によって事情は違う。
井出さんは、それが誤解なら、きちんとデータを示した上で違うことをわかってもらうし、もし事実ならあっさり認めるという。「嘘はつかない」ことを信条としているからだ。
ただし、単に認めるだけでは営業にはならない。ここで井出さんは「毎日たくさん乗るんでしょうか?」と、お客がどのように車を使うのか、質問していく。
すると、人によっては燃費をさほど気にしなくていいくらいの頻度でしか車に乗らなかったりするのだという。
また、お客の本当に欲しいものは何かも見極めなければならない。「この車がいい」と気に入っていても、使い方をよくよく尋ねてみたら、オーバースペックだったり、逆にスペックが足りなかったりするからだ。
このあたりを曖昧にしたまま売ってしまえば、後でお客の心には不満が出てくる。「中古車だからどうしても値段の話にはなるけれど、少し高めでもお客様の求める使い方に合致したスペックのものを勧めれば、後々喜んで頂ける」(井出さん)のだ。
質問の答えには、提案に役立つ情報が詰め込まれているのだから、聞かない手はない。「僕は聞かれない限り、ほとんど自分はしゃべらず、ひたすら質問します」(井出さん)。
優秀な営業マンは
無意識に心理テクを使う
もう一つ、井出さんが徹底して行っているのが、顧客情報の管理とフットワークの軽さ。いつが車検や点検のタイミングか、買い替えの時期はいつ頃かなど、細かに顧客情報リストを作っておき、必要なタイミングにさらりと電話やメールで案内をする。
「僕は電話でも決して長話はしない。必要なことを手短にご連絡するだけ」(井出さん)というが、フレンドリーな長話より、時宜を得た連絡のほうがよほどお客の来店動機になる。
また、「できることはその日のうちにやる」(井出さん)と決めている。多くの営業マンができそうでできない部分だ。ここをきっちりとこなすことで「よくしてもらった」と喜んで友人、知人を紹介してくれる。これは「返報性」(図参照)の心理法則だ。

中古車は新車と違い、日々在庫が流れる。「ベンツのEクラスで色は白。左ハンドル」という要望があったとしても、該当する車がある日もあれば、ない日もある。
「来週まで考える」ということが難しい業態だけに、「希少性」(図参照)も働くのだ。
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