どんな仕事にも、修行時代があります。私自身、就職したての頃にはコピー取りやファックス送付といった雑用を散々やらされたものです。ゴミ捨てに灰皿の掃除。先輩の机を水拭き。「くだらねえことやらせやがって……。」と思っていました。今考えてみると、新入社員を洗脳し、序列に組み込むための、実に日本的な儀式だと思います。1年生のテニス部員が球拾いをやらされるのと同じ理屈ですね。
新人さんに組織にあった「振舞い」が身に付くと、段々と重要な仕事を任されるようになります。1年も過ぎる頃にはすっかり会社のカラーに染まり、そして次の新入社員が入ってきます。雑用はすべて新入りにバトンタッチ。年功序列って、サラリーマンに既得権の味を憶えてさせてしまう、問題の多いシステムであるように思います。
ただ、こういった徒弟制度のようなシステムも、悪い所ばかりではありません。「下積み」と呼ばれる仲間入りの儀式をキチンと踏めば、皿洗いから料理人に、あるいは雑用係から職人さんになる道が拓けたりもします。現実にそんなふうに立身を遂げていった人々、私たちの周囲にも少なからずいるのではないでしょうか?
「雑用」はどこへ行ったのか?
経験値や学歴の低い若者にとって、単調でつまらない仕事から業界に潜り込み、そこで認められ実績を積んでいくのは洋の東西を問わず貴重な立身出世のルートとして長年機能してきました。しかし、非正規雇用が3割以上を占める現在では、こうした徒弟制度そのものが崩壊しつつあります。派遣労働先に骨を埋めることなんてできません。
さらに年功序列、徒弟制度的なシステムを更に破壊しつつあるのが、急速に進む機械化です。20年前には新入社員の当たり前仕事だった雑用も今は機械が代行です。コピー取りもファックスも、必要性そのものが激減してしまいました。残った雑用も、やらさせるのは新人ではなく派遣社員だったり…。
新人もいきなりそれなりの仕事をしなくっちゃなりませんから、大変なものです。その一方、先輩の方も先輩面する機会が減ったんじゃないかと思います。新人の方がITに明るいこともあるでしょう。また、仕事の道具そのものがIT化で大幅に簡略化され、先輩が教えるほどの仕事ではなくなってしまったことも多いのではないでしょうか? ネットで調べれば分かることも多い時代ですから、先輩の権威を保つのも大変でしょう。
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