書けるひとになる! 魂の文章術

オープンになれ。耳を傾けよ」とケルアックは言う

書くことで、あなたの人生はもっと楽しくなる! 全米100万部超え、14カ国語で翻訳された、ロングセラーの名著がついに復刊! 自己表現したい/書きたいのに書けない/もっとうまく書きたい… そんなあなたに贈る「書けるひとになる! 魂の文章術」は何度も読みたくなる 楽しい文章読本だ。ベストセラー作家にして40年にわたってライティングを教え続けている著者自身や生徒たちの実体験を踏まえ、<どうすれば書けるか><書き続けられるか>を伝授する。

六歳のとき、私はブルックリンにいる従姉のピアノの前にすわっていた。自分も曲が弾けて、それに合わせて歌えるような気分になっていたのだ。「悲しみの中で、ああ、愛しい人」と私は歌った。すると、すぐ横でピアノの椅子にすわっていた九歳年上の従姉が、私の母に向かって金切り声をあげた。「シルビアおばさん、ナタリーは音痴よ! 歌が歌えないの!」 それ以来、私は歌を歌わなくなった。音楽もほとんど聞かなかった。ブロードウェイのミュージカルがラジオから流れてくると、歌詞は覚えてもけっしてメロディーを口ずさもうとしなかった。もっと大きくなってから、私は友達と曲当てゲームをした。私がハミングをすると、みんな大笑いしたものだ。その曲が『南太平洋』の「春よりも若く」だとまともに信じてくれる人はいなかった。若いころの私は笑いものになるという形の注目しか浴びることはなかった。心の内ではひそかにジプシー・ローズ・リー〔一九一一〜七〇。米国のストリッパー、歌手。舞台・映画で活躍〕になりたいと思っていたのだが……(だって、私はあらゆる曲のメロディと歌詞を知っていたのだ)。残念なことに、音楽の世界は基本的に私とは縁のないものだった。私は音痴だった。それは、足や指がないのと同じように、ひとつの身体的欠陥に思えた。

何年か前、私はスーフィーの歌のマスターからレッスンを受けることにした。彼によると、音痴などというものは存在せず、「歌とは、その九〇パーセントが聴くことだから、聴く練習をしなければいけない」のだそうだ。聴くことがマスターできれば、身体が音楽で満たされ、口を開けばそれが自然に流れ出すという。二、三週間後、私は生まれて初めて友達に合わせて歌うことができた。自分は悟ったのだと思ったぐらいだ。私の声が消え去り、友達の声とひとつになったのだ。

書くことも、九〇パーセントは聴くことだ。自分をいっぱいに満たすまでまわりの空間に聴き入るなら、ペンを握ったとき言葉がほとばしり出てくるはずだ。身のまわりの現実をとらえることができるなら、あなたの文章は他になにも必要としない。テーブルの向かいから話しかけてくる言葉だけでなく、空気や椅子やドアにも耳を傾けよう。そしてドアの向こうにも……。季節の音を取り込み、窓から入ってくる色も耳でとらえよう。いま自分のいるこの場所で、過去、現在、未来に耳を傾けるのだ。手や顔やうなじも使って、身体全体で聴くようにしよう。

聴くことは受容能力だ。真剣に聴くことができればできるほど、上手に書けるようになる。ものごとをあるがままに判断抜きで受け入れるなら、次の日、あなたはあるがままの真実を書くことができるだろう。ジャック・ケルアックは散文を書くための必須項目リストにこう記している。「あらゆることに対して素直であれ。オープンになれ。耳を傾けよ」。また、こうも言っている。「詩に費やす時間はない。あるがままのものごとを正確に書くこと」。ものごとのあるがままの姿をとらえることができれば、それだけで詩になるのである。

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書けるひとになる! 魂の文章術

N・ゴールドバーグ,小谷啓子
扶桑社
2019-11-02

この連載について

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書けるひとになる! 魂の文章術

ナタリー・ゴールドバーグ

書くことで、あなたの人生はもっと楽しくなる! 全米100万部超え、14カ国語で翻訳された、ロングセラーの名著がついに復刊! 自己表現したい/書きたいのに書けない/もっとうまく書きたい… そんなあなたも、“書けるひと”になれる! 何度も...もっと読む

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omuramf 『ジャック・ケルアックは散文を書くための必須項目リストにこう記している。「あらゆることに対して素直であれ。オープンになれ。耳を傾けよ」』 |ナタリー・ゴールドバーグ | #cakes 10ヶ月前 replyretweetfavorite