書けるひとになる! 魂の文章術

聖なるディテールを愛撫せよ」とナボコフは言う

書くことで、あなたの人生はもっと楽しくなる! 全米100万部超え、14カ国語で翻訳された、ロングセラーの名著がついに復刊! 自己表現したい/書きたいのに書けない/もっとうまく書きたい… そんなあなたに贈る「書けるひとになる! 魂の文章術」は何度も読みたくなる 楽しい文章読本だ。ベストセラー作家にして40年にわたってライティングを教え続けている著者自身や生徒たちの実体験を踏まえ、<どうすれば書けるか><書き続けられるか>を伝授する。

ケーキを焼くには、まず材料が必要だ。砂糖、小麦粉、バター、重曹、卵、牛乳。次に材料をボールに入れてかきまぜる。これだけではまだケーキにならない。このドロドロの液体をケーキに変身させるには、オーブンに入れて熱とエネルギーを加えてやらなければならない。できあがったケーキは、もとの材料の面影もとどめないほど様変わりしているだろう。ヒッピーになった子供を自分の子と認めたがらない六〇年代の親のように、牛乳と卵はパウンドケーキを見て言う。「うちの子じゃないわ」。それは卵でも牛乳でもなく、移民の親から生まれた博士号を持つ娘—家の中の異邦人だ。

ものを書くことは、ある意味でケーキ作りに似ている。材料—自分の人生のディテール—がそろっていても、それを並べるだけでは不十分だ。「私はブルックリン生まれの女性で、父も母も健在」。これにハートから出る熱とエネルギーを加えてやらなければならない。たとえばこの父親は、どこの父親でもいいというのではなく、あなたのお父さんでなければならない。葉巻を吸い、ステーキにケチャップをかけすぎるあの人。あなたが愛し、憎んだ人。ボールに放り込んだだけの材料には生命がない。愛していようと憎んでいようと、まず自分自身がディテールと一体になる必要がある。そうなれば、材料はあなたの身体の延長になる。「聖なるディテールを愛撫せよ」と作家のナボコフは言う。「無理やり押し込んだり、叩きまくれ」とは言っていない。愛撫するのだ。やさしく触れるのだ。身のまわりのことに気を配ろう。川のことを書くなら、身体全体で川に触れてみよう。もしその川を「黄色い」「面白くない」「ゆるやかだ」と描写するなら、あなたのすべてがそう感じていなければならない。ものごとに深く関わるとき、自分がそこから分離しているようではだめだ。片桐老師はこう言っている。「坐禅をするとき、自分は消え失せなければならない。そうすれば坐禅が坐禅をしてくれる。バーバラやスティーヴが坐禅をするのではないぞ」。ものを書くときの態度もそうあるべきだ。書くという行為自体が文章を綴っていく。あなたは消え失せる。あなたはただ、自分の中を流れていく思考を記録するだけだ。

オーブンの中でケーキは焼きあがっていく。すべての熱はケーキを焼くことに集中する。その熱は、「ほんとうはパウンドケーキじゃなくてチョコレートケーキを作りたかったんだ」などと考えて、脇道にそれたりはしない。同様に、文章を書いているときは、「あーあ、こんな人生いやだなあ。イリノイ州に生まれていればよかった」などと考えるべきではない。考えてはいけない。あるがままを受け入れて、その真実を書き出すのだ。片桐老師はこうも言っている。「文学は人生のなんたるかを教えてくれるだろうが、そこから抜け出す方法は教えてくれない」。

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書けるひとになる! 魂の文章術

N・ゴールドバーグ,小谷啓子
扶桑社
2019-11-02

この連載について

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書けるひとになる! 魂の文章術

ナタリー・ゴールドバーグ

書くことで、あなたの人生はもっと楽しくなる! 全米100万部超え、14カ国語で翻訳された、ロングセラーの名著がついに復刊! 自己表現したい/書きたいのに書けない/もっとうまく書きたい… そんなあなたも、“書けるひと”になれる! 何度も...もっと読む

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consaba ナタリー・ゴールドバーグ「材料なしに熱だけでケーキを焼こうとする人がいる。熱はホカホカしていい感じだが、調理が終わっても人に食べてもらえるようなものはほとんどない。抽象的な文章がそのよい例だ。」https://t.co/CxcrpX6uN3 9ヶ月前 replyretweetfavorite