一番大事なのは「今、ここ」の感覚

自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。『イヤな気分をパッと手放す「自分思考」のすすめ』をcakesで特別連載!(毎週火曜更新)

一番大事なのは「今、ここ」の感覚

 イヤな気分のとき、うつ状態のときには、自責感がとても強くなります。
「誰かから求められていることができない自分」「こうあるべきなのにできない自分」を責めてしまいます。他者評価で自分を苦しめているのです。
「私はどうしてできないの?」ではなく、「やるか、やらないか」という方向に行かないと、他者思考から脱け出すことはできません。
 そして、うつ状態であればあるほど、何かをしようとするのをやめて、「何もしない」という決断をしてください。
 何もしないのは難しい、それでも目指してほしいのです。
 何もしないでずっと寝ている。天井だけを見て、動かない。眠ろうと思わない。そうすると、自分が本当にしたいことがわかってきます。おいしいものを食べたいのか、背中をかきたいのか、遊びに出たいのか、友だちに会いたいのか。どれがほんとうにやりたいことなのかがわかるのです。
 かつて私は精神科閉鎖病棟に入って、持ち物も全部取り上げられて缶詰め状態になって、同じ体験をしました。
 何もしてはいけないと言われるからこそ、「どうしてもこれだけは捨てられない」という、やりたいことに気づくのです。
 繰り返しますが、命軸で考えるとほとんどがどうでもいいことです。
「これはどうでもいい、これも重要ではない」と仕分けして、仕分けして、「どう生きるか、自分はどうやって生きたいのか」というところにたどり着くのです。
 そのとき、先を心配したり過去を悔やんだりすることから解放されます。
「何のために今、私はここにいるのか」「今、この私にできることは何なのか」という、一番大事な「今、ここ」の感覚になっていくのです。

「行き着くところまでやってあきらめる」でもOK

「休まないで、とことんやる」という決断も悪くありません。そういう決断をして、潰れるまでやってみるのもひとつの方法です。
 私はそれを「泳がせる」と言っているのですが、苦しくても休めない人が実際にいます。休めない人は「何もしない」ということがわからないし、想像できないのです。だから「いいです、倒れるまでやってください」と受け入れます。
 これは上司にも言っておきます。「きっと倒れますので、そのとき、ピックアップしましょう。今は泳がせましょう」と言っておくのです。
 そうしないと、本人にあきらめがつかないからです。
 もっと頑張れるのではないか、もっといい方法があるのではないか、魔法使いが出てくるのではないか。休めない人はそんなふうに考えてしまうのです。
 でも、この世界では魔法が使えません。自分が動かなければ何もできないし、自分には限界があるのだと実感したとき、やっとあきらめがつくのです。

 私にも、やはりそういう時期がありました。ずっと、自分は泳いでいないと死ぬマグロだと思っていたし、スケジュール帳にちょっとでも空白があると、不安で押し潰されそうでした。
 ぎっしり予定を入れていたのは、忙しくしていれば自分と向き合わなくて済むからです。自分の弱さやできないところと向き合わなくて済むからです。誰かと会ったりすることで、生きている感覚を求めているような感じでした。
 そういうときに「何もしない練習をしましょう」などと言われたら、首を絞められるようなものです。
 だから、あまりにも自分と向き合えない人には、倒れてもらうしかありません。自死されるよりは、そうやって倒れられたほうが、こちらがわかっている分、助けやすいのです。病院に入院の準備を頼んで、まわりにも伝えておいて泳がせます。
 本人も、「仕事しちゃダメ、寝ていて」と言われると悶々としているのですが、「限界までやってみて」と言われると、自分の意志で泳がせてもらっているので、「もう、無理。ダメかも」となったときにあきらめがつくようです。
 この場合、潰れはしても、過労死した例は見たことがありません。
 ただ、亡くなってしまうリスクももちろんあります。それは家族にも上司にも話します。「できることとできないことがあるので、亡くなるかもしれないということは頭のどこかに置いておいてください」と。本人には死ぬ以外何でもやってみればいいと伝え、死にたくなったら必ず言うことを約束してもらいます。
「危ないなら、無理にでも入院させたほうがいいのに」と思う人もいるかもしれませんね。でも、その人を部屋に閉じ込めればうまくいくとは限らないのです。そんなことをすると医療へのうらみつらみが高まっていって、治療どころではなくなるケースもあります。リスクも考え、死にたくなるメカニズムを伝え、「境界は死にたい気持ちになる時」と伝えることで信頼関係が生まれるのです。
「段取りをして、やれるところまではやりました。後は自分の決断ひとつなので、泳いでみてもいいですよ」という形をとるほうが、リスクはあっても信頼し合え、同じリスクと向き合う同志になるのです。
 そして、本人はそのときの「底打ち体験」が自分と向き合うチャンスになって、「今、私は何がしたいのか、何ができるのか」という感覚にたどり着くことができます。

<次回は1月21日(火)更新予定>

3万人の自衛隊員の心を救った「行列のできる臨床心理士」が教える、自分思考メソッド。

この連載について

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イヤな気分をパッと手放す「自分思考」のすすめ

玉川真里

自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。『イヤな気分をパッと手放す「自分思考」のすすめ』をcak...もっと読む

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