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先日、日経の記事に「ホワイトカラー・エグゼンプション」というキーワードが出ていました。私はこれに対して、非常に強い苛立ちを覚えます。その内容に対してではなく、この表現に対して。
というのは、こういった意味不明な表現をすることで、相手に内容が伝わらないようにしているからです。おそらく意図的に「伝わらないように」と考えています。それに対して苛立ちを覚えるのです。
この「ホワイトカラー・エグゼンプション」というのは、日本語に直訳すると、「事務所内で働く労働者除外」といった意味です。
ホワイトカラーを無理やり日本語にすると、余計煩わしくなるので、ホワイトカラーはそのまま残しましょう。とすると、「ホワイトカラー除外」となります。ホワイトカラーを除外するという内容なわけです。
では、何から除外されるのか? 実際は、それが問題なんですよね。
今回、ホワイトカラー(正確には、一定の条件を満たした管理職や専門職)が除外されるのは、これまで決まっていた「労働時間の規制」です。つまり簡単に言うと、
●労働時間を○時~△時と決め、
●それを超えて残業したら残業代を払わなければいけない
という規制から「除外する」ということです。
つまりそれは、
●これらの対象者については、
●労働時間を定めない
●残業代を支払わない
ということです。
あるレベル以上の役職者は、
●自分で仕事をコントロールできるはず
●忙しい時には働くが、暇な時には思いっきり休めるはず
●緩急つけた働き方をして生産性をあげよう
そういう意図があります。
しかし、この制度を導入すると、おそらく、
●忙しい時には思いっきり働き
●暇な時は・・・ない
となり、単純に残業代がもらえなくなるだけ、となるでしょう。そのため、この制度に反対する人も多いわけです。
ただ、わたし自身、この制度に対しては賛成です。これからは時間ではなく、成果に対してお金を支払ってもらうように従業員も意識を変える必要があります。でなければ、いつまでたっても、労働者は豊かになれません。
「が、しかし」です、この「ホワイトカラー・エグゼンプション」という表現は内容を意図的に隠し、よくわからないようにしています。「管理職・専門職の残業代をなくす制度」など、内容がわかる名称にしなければいけません(※これは単なる思いつきなので、実際にはもっといい表現を考えなければいけませんが)。
このキーワードは、アメリカで使われている表現をそのままカタカナにしているようです。「アメリカでそう言われている」といって、平気でこの言葉を使う人もいます。
ですが、外国でどう言われていようが関係ありません。日本人に分かる表現にする必要がありますし、発信者には、そう表現する責任があります。内容を考えず、右から左に流用しているだけでは、思考が停止してしまいます。
世の中にはびこる「意味不明な日本語」
単純に、カタカナ語だから意味不明だということでもありません。日本語でも意味不明な言葉はたくさんあります。たとえば、「確定拠出年金」という言葉があります。
この言葉を文章化すると、「拠出が確定している年金」となります。「拠出」とは「出す」ということですから、ここでは「支払う」という意味になります。要するに「確定拠出年金」とは、「支払うお金が確定している年金」なんですね。
日本語としての意味を把握するだけなら、これで問題ありません。でも、「支払うお金が確定している年金」と言われても、年金に詳しくない人にはピンと来ないと思うので、この先を考えてみましょう。
わざわざ「拠出が確定している」と言っているということは、「ふつうの年金と違う」ということになりますね。普通の年金は「確定給付」です。これも分解すると、「給付が確定している」、つまり「支払われる年金が確定している」ということになります。そう考えると、確定拠出年金は、「支払われる年金が確定していない」ということなんです。
ここまで考えていくと、確定拠出年金は、「支払う金額は決まっているけど、もらえる年金の額は決まっていないタイプの年金」ということが分かりましたね。
単純に熟語として見ただけでは、ここまでのひも解きはできません。熟語を文章として"開いて"読むことで、より深く理解でき、また他人にも分かりやすく説明ができるのです。
このように、意味不明な言葉を並べているだけで、実際は内容を把握できていないという表現がたくさんあるのではないでしょうか?
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