本心を全裸にする言葉

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回は、三浦しをんさんの「台詞の魅せ方」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。

三浦しをんの台詞力
「さすがにそこまでわかりやすくないだろ!」って突っ込みたくなる。


三浦しをんさんといえば辞書編纂や林業、文楽など、あまりメジャーではない職業にスポットライトを当て、見事なエンタメ小説に仕上げる作家さんとしておなじみ。
そして小説の作風とはまた違った雰囲気を持つ彼女のエッセイも、すごく魅力的なんです。
おかしい話じゃないのに、なんか笑える。いい話じゃないのに、元気になっちゃう。
とにかく人間臭い魅力にあふれています。

その魅力の秘密はどこにあるのでしょう。
たくさんありすぎて迷ってしまうのですが、ずばり一つ挙げるとするならば、
まるで“フィクションのような”台詞の見せ方! にあると思います。

フィクションのような? 
エッセイって「リアルな出来事」から得た経験をもとに、意見や考えをまとめたものでしょう? 
たしかに。普通は、会話の内容はそのまま書くものなんですけど。
でも、三浦しをんさんのエッセイはこんな表現によって、より「エッセイらしく」なってるんです。


〉「『ちっ』じゃねえ。どけるのが手間だってんなら、荷物はロッカーにでも預けてくればいいだろ、ごるぁ」〉「いたたたた、足に乗っかられちゃったわよ!」


分かりますか? 三浦しをんさんは自分の心の中の声や、登場人物が放った言葉に、ほんの少し「色づけ」をしているんです。

一般的な女性の心の中の言葉としては、


〉「舌打ちなんてしちゃって。どけるのが手間だっていうなら、荷物はロッカーにでも預けてくればいいじゃないの」

くらいの言葉遣いが普通じゃないでしょうか。

でも三浦しをんさんは、そんなありきたりな会話文じゃ満足しない。
「だってんなら」とか「ごるぁ」とか。実際、脳内でそんな発音をしたのかどうかは定かではありませんが、文章では型通りじゃない表現をする。それによって、より本物っぽい場面を再現されてるんです! 


〉「いたたたた、足に乗っかられちゃったわよ!」


についても同じ。もしかするとおばちゃんは実際「いたた」くらいの声だったのかもしれませんが、「いたたたた」とオーバーに表現されている方が本物っぽく伝わってきます。

「ごるぁ」という漫画のような言葉の持つ印象によって、この書き手は怒ってるはずなんだけど、どことなくコミカルな印象も受けます。人間らしさ、親しみやすさが、より見える。

三浦さんの工夫はそれだけじゃありません。

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文芸オタク女子の バズる文章教室

三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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コメント

juni_ca_wa_ii 三浦しをんちゃんは本当に上手い。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite