「セメント王」と称された諸井恒平は渋沢家の親戚に当たり、渋沢の母には小さいころからかわいがってもらったという。記事中でも渋沢の母との思い出話がつづられている。そんな間柄のせいか、渋沢とは裸の付き合いだったようだ。
実業家の中で、暁天の星ともいうべき人物は何といっても澁澤翁であろう。
大体澁澤は、天性の素質が優秀なのだ。お父さんもお母さんも立派な人であった。澁澤はこの両親の美質を受け継いで生まれた。澁澤は、知能が優れているばかりでなく、その体質もまた実に偉大なものである。
僕はつい何年か前までは、よく澁澤の裸を見たものだが、その身体といったら、実に見事なものだ。僕は全盛時代の常陸山と比較して、なんら遜色ないと思った。ただ、常陸山の皮膚は赤銅色だが、澁澤のは桜色だ。白い肌に赤みがさして、燃える様に美しく、男でも見とれるくらいであった。とても八十歳の人とは思われない。医者が澁澤は普通人より二十年若いといってるそうだが、本当に若々しい。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。