脂肪を極限まで削ぎ落とせば

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回は、芥川賞作家・綿矢りささんの「まっすぐすぎる文章」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。


綿矢りさの簡潔力
押しが強い! けどそこがいい。




突然ですが、間違い探しです。


〉さかきちゃんは美人だ。でも亜美ちゃんはもっと美人なのだ。グリム童話「白雪姫」で継母の女王様は「女王様は美しい。でも白雪姫はもっと美しい」と魔法の鏡から衝撃の告白を受けて、 鏡をぶち割った。しかし魔法の鏡に訊くまでもない。さかきちゃんは美人だ、でも亜美ちゃんはもっと美人なのだ。明白な事実なのである。


はい、どこがちがうでしょうか?

そう、語尾! 

伝わる内容はまったく同じなんですが、語尾だけを改悪してみたのです。
日本語は、「主語」と「述語」から成り立ちます。
わたしは・ペンを・もっています。こんな文章にも主語と述語がある。

だけど実際に喋り言葉では、主語や述語を省略することはよくありますよね。
「おかーさん、お茶」「今朝も天使な女子アナ」
「めっちゃ欲しいやつな」「なにそれ面白すぎるんですけど」

どれも文法的にはおかしいのだけれど、無駄がないから情報そのものは伝わりやすい。

この“省略”は、文章で使うことによって、一定の効果を生みます。

綿矢りささんは、現代の小説家の中でも飛び抜けて上手な文章を書く人だなあと思うのですが、なにがすごいか、一つだけ挙げるとすれば、1文字として、無駄な言葉が見当たらないことです。
一文一文の脂肪が、極限まで削ぎ落とされている。

では、綿矢りささんの文章に存在しない「無駄」を足すとどうなるのか? 
それは、私たちが、ふだんぼんやりと使っている「〜だ」「〜なのだ」「〜です」「〜なのです」といった語尾なんです。

語尾って意外と削れるんです。
削ってみて、語尾。ほら、可能な限り。
考えるよりも、まずは実践。見習うべきは、綿矢りささんの例文!

一文を名詞で終える。
むかし国語の時間に習った、おなじみ“体言止め”ですね。
体言止めを使うことによって、イメージの残りやすい文章になります。

たとえば。

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三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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