嫌われる勇気

第四夜 vol.5 青年は嘆く。「わたしは自分に価値があるとは思えません!」

哲人は「人は他者の役に立っていると思えたときこそ、自らの価値を実感できる」と言います。しかし、この考えは危険ではないのでしょうか? 頭を整理し終えた青年は哲人の言葉を暴論だと言い放ちます。それに対して「何をしたか」が重要ではないと優しく諭す哲人に、青年は自分を抑えられなくなって……。第四夜、ついに最終回です!

 共同体感覚の議論は、ますます混迷の度合いを深めた。ほめてはいけない。そして叱ってもいけない。他者を評価する言葉は、すべて「縦の関係」から出てくる言葉で、われわれは「横の関係」を築いていかなくてはならない。そしてわれわれは自分が誰かの役に立っていると思えたときにだけ、自らの価値を実感できる。……この論理には、どこか大きな落とし穴がある。青年はそう直感していた。熱いコーヒーを飲みながら彼の脳裏をよぎったのは、自らの祖父だった。

「なにをしたか」を見る前に

哲人 さて、整理できましたか?

青年 ……少しずつではありますが、見えてきました。しかしですね先生、お気づきでないようですが、あなたは先ほど、とんでもないことをおっしゃいましたよ。あまりに危険な、世界のすべてを否定しかねない暴論を。

哲人 ほほう、どういうことでしょうか?

青年 誰かの役に立ててこそ、自らの価値を実感できる。逆にいうと、誰の役にも立たない人間には、なんの価値もない。そうおっしゃっているのですよね? 突き詰めるとそれは、生まれて間もない赤ん坊、そして寝たきりになった老人や病人たちは、生きる価値すらないことになってしまう。
 わたしの祖父についてお話ししましょう。祖父は現在、施設に入って寝たきりの生活を送っています。認知症のおかげで子や孫の顔もわからないし、とても介護なしでは生きていけない状態です。どう考えたところで、誰かの役に立っているとは思えません。わかりますか先生! あなたの議論は、わたしの祖父に「お前のような人間には生きる資格がない」といっているのと同じなのです!

哲人 明確に否定します。

青年 どう否定するのです?

哲人 わたしが勇気づけの概念について説明すると、「うちの子は朝から晩まで悪いことばかりして、『ありがとう』や『おかげで助かった』と声をかける場面がありません」と反論される親御さんがいます。おそらくあなたがおっしゃる話も、同じ文脈ですよね?

青年 そうですよ。さあ、先生の弁明をお聞かせください!

哲人 あなたはいま、他者のことを「行為」のレベルで見ています。つまり、その人が「なにをしたか」という次元です。たしかにその観点から考えると、寝たきりのご老人は周囲に世話をかけるだけで、なんの役にも立っていないように映るかもしれません。
 そこで他者のことを「行為」のレベルではなく、「存在」のレベルで見ていきましょう。他者が「なにをしたか」で判断せず、そこに存在していること、それ自体を喜び、感謝の言葉をかけていくのです。

青年 存在に声をかける? いったいなんのお話ですか?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
嫌われる勇気

岸見一郎 /古賀史健

「世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる」――古都のはずれに、そんな持論を語る哲学者が住んでいました。人間関係に苦悩し、人生の意味に悩む「青年」は、到底納得することができず、その真意を確かめるべく哲学者(哲人...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません