第279回 放物線をつかまえて:文字と式の謎を解く(前編)

力学的エネルギー保存の法則と《お友達》になりたいテトラちゃん。あなたもいっしょに力学にチャレンジ!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。

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高校にて

テトラちゃんミルカさんは、《力学的エネルギー保存の法則》について話し合っている。

テトラちゃんが《仕事》という概念を通して《力学的エネルギー》の学びを深めたところ。

テトラ「……そうなんです。《位置》や《速度》や《加速度》は何となく感覚的に分かります。 《力》や《質量》もわかります。 でも《力学的エネルギー》までくると、苦しくなります。 式の形がちらちらして、その形にどんな意味があるのかわからなくて不安になるからです」

「なるほどね。だから式の形が複雑になると、その不安が増大する……みたいな?」

テトラ「そうなんですっ! でも、$Fs$のようなシンプルな式だと、ちょっと安心します。《力》と《位置の変化》の積が《仕事》……ですよね」

「そうだね。いまは《力》が一定で、しかも一次元で考えているから。《仕事》は《力$F$》と《位置の変化$s$》の積になる」

テトラ「はい。もう少しじっくり考えれば《仕事》とお友達になれそうです。そして《仕事》とお友達になれたら《力学的エネルギー》とも仲良くなれるかな……なれたらいいなって」

ミルカ「こんな問題を考えても楽しい」

テトラ「どんな問題でしょう」

ミルカ「質点に《仕事》をすると、その《仕事》の分だけ、質点が持つ《力学的エネルギー》が増加する」

テトラ「はい……」

ミルカ「さっきは《位置エネルギー》に軸足を置きたかったから、準静的な質点の移動を考えた(第278回参照)。《運動エネルギー》を$0$に保ったまま質点に対して《仕事》を行い、 質点に行った《仕事》のすべてが質点の《位置エネルギー》になる設定を考えたことになる」

テトラ「は、はい……そうですが?」

ミルカ「それでは、質点に行った《仕事》のすべてが質点の《運動エネルギー》になる設定を考えたらどうなるか」

「んんん、どういうこと?」

《仕事》を《運動エネルギー》に変える

ミルカ「新たな設定を考える。といっても質点に《仕事》をすることに違いはない。質点に《仕事》をすれば、質点が持つ《力学的エネルギー》は増加する。 テトラ、《力学的エネルギー》とは何?」

ミルカさんテトラちゃんを指さす。

テトラ「はい。《力学的エネルギー》は、《運動エネルギー》と《位置エネルギー》の和です。これはもう理解しました(第278回参照)」

$$ \text{《力学的エネルギー》} = \text{《運動エネルギー》} + \text{《位置エネルギー》} $$

ミルカ「そう。だから、質点の《位置エネルギー》を変えないようにしつつ、質点に対して《仕事》をすれば、質点の《運動エネルギー》が増加することになる」

テトラ「そうなりますね……ちょうど《仕事》の分だけ《運動エネルギー》が増加する、と思います。でも《位置エネルギー》を変えずに《仕事》をするなんて可能なんですか?」

「それは可能だよ。だって……おっと」

ミルカさんの視線がこっちに向けられたので、は次に発する言葉を切り換える。

「きっとテトラちゃんなら、《位置エネルギー》を変えずに《仕事》をするには、どうすればいいかわかるよ」

ミルカ「……」

テトラ「こういうことですよね」

  • 質点があります。
  • その質点に《力》をかけます。
  • 質点にかける《力》の大きさは一定とします。

ミルカ「向きも」

テトラ「あ、はい、そうでした。《力》はベクトルでした……」

  • 質点があります。
  • その質点に《力》をかけます。
  • 質点にかける《力》の向きと大きさは一定とします。
  • その《力》を使って質点に《仕事》をします。《仕事》をする……あれ?

「《仕事》は、さっき確認したよね」

テトラ「はい。質点に対して《仕事》をするということは、質点にかけた《力》の向きに、質点の《位置》を動かしていくわけですよね。だって、《力》と《位置の変化》の積が《仕事》ですから」

「それでいいよ、テトラちゃん」

テトラ「で、でも、そうしたら、質点は上に動くことになりますから、《位置エネルギー》は増えてしまいます!」

ミルカ「上に動かさなければいい」

テトラ「え? ああ! テトラ、理解しました! 《位置エネルギー》を変えずに《仕事》をするという設定の意味をようやく理解しました。質点を水平方向に動かせばいいんですね!」

「そうだね。高さが変わらなければ、重力による《位置エネルギー》は変わらないから」

ミルカ「こういう問題にしよう。テトラはこの問題を解ける」

問題

  • 平面上に質点がある。
  • 質点の《質量》を$m$とする。
  • 質点の《位置》を$x$で表す。座標軸は水平方向に取る。
  • 質点は時刻$0$のとき、《位置》$x = 0$で静止している。
  • 質点に対して、向きと大きさが一定の《力》をかける。
  • 《力》の向きは$x$軸の正の向き、《力》の大きさは$F$とする。

質点の《位置》を$x = s$まで動かしたときの質点の速度$v$を計算し、そのときに質点が持っている《運動エネルギー》を求めよ。

テトラ「あたしは、この問題を解ける……?」

「……」

ミルカ「……」

テトラ「……」

テトラちゃんはノートに計算をしている。 は暗算に挑戦したけど、結局ノートに書くことにした。

しばらく、静かな時間が過ぎる。

テトラ「あたし……できたと思います。あたしは、こんなふうに考えを進めました。聞いていただけますか?」

ミルカ「もちろん」

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結城浩

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コメント

chibio6 物理がわからなかったのは言葉の定義とイメージがずれていたからで、力というの… https://t.co/tVgbgGW9EC 2ヶ月前 replyretweetfavorite

oto_oto_oto バネの位置エネルギーの導出は数学的。準静的な質点の移動から導くと自然に積分になる。どちらかといえば物理的。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

aramisakihime 「微分してゼロだから定数」がこういう使われ方をするのか!……と、初めて見たときに感激した気持ちを思い出しました。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

chu_5116 した仕事が運動エネルギーになることを説明せよと言われてもできないけど、これには納得した。しかもバネの位置エネルギーの導出もそんな形で出てくるなんて鳥肌たったね https://t.co/ubBt4YOtLQ 2ヶ月前 replyretweetfavorite