嫌われる勇気

第四夜 vol.3 青年は訴える。「わたしは他者からほめられたい!」

「目的論」「劣等コンプレックス」「課題の分離」など、アドラー心理学の様々な考え方が登場したなかで、とくに鍵となる考え方だという「共同体感覚」。それは対人関係の「ゴール」でもあると、哲人は言います。はたして、その内実はどのようなもので、私たちは具体的にどのようにしたらその〝感覚〟を得ることができるのか? 共同体感覚をめぐる青年と哲人の対話は、引き続き白熱していきます!

 アドラー心理学の鍵概念であり、もっとも評価の分かれる議論だという共同体感覚。たしかにその考えは、青年にとってにわかに納得しがたいものだった。無論、「あなたは自己中心的だ」と指摘されたことにも不満はあった。しかし、なによりも納得できなかったのは、宇宙や無生物まで含むとする共同体の範囲だ。いったいアドラーは、そして哲人は、なんの話をしているのか。青年は困惑した表情を浮かべ、静かに口を開いた。

より大きな共同体の声を聴け

青年 ううむ、よくわからなくなってきました。ちょっと整理させてください。まず、対人関係の入口には「課題の分離」があり、ゴールには「共同体感覚」がある。そして共同体感覚とは、「他者を仲間だと見なし、そこに自分の居場所があると感じられること」である、と。ここまではわかりやすいし、納得できる話です。
 でも、まだ細部は納得できません。たとえば、その「共同体」なるものが宇宙全体に広がり、過去や未来、生物から無生物まで含む、というのはどういう意味ですか?

哲人 アドラーのいう「共同体」の概念を言葉のままに受け取って、実際の宇宙や無生物をイメージすると、理解をむずかしくしてしまいます。さしあたってここでは、共同体の範囲が「無限大」なのだと考えればいいでしょう。

青年 無限大?

哲人 たとえば、定年退職をした途端に元気をなくしてしまう人がいます。会社という共同体から切り離され、肩書きを失い、名刺を失い、名もない「ただの人」になること、すなわち「普通」になることが受け入れられず、一気に老け込んでしまう。
 でも、これは単に会社という小さな共同体から切り離されただけにすぎません。誰だって別の共同体に属しているのです。なんといっても、われわれのすべてが地球という共同体に属し、宇宙という共同体に属しているのですから。

青年 そんなものは詭弁にすぎませんよ! 唐突に「あなたは宇宙に所属している」といわれて、いったいなんの所属感をもたらしますか!

哲人 たしかに、いきなり宇宙は想像できないでしょう。しかし、目の前の共同体だけに縛られず、自分がそれとは別の共同体、もっと大きな共同体、たとえば国や地域社会に属し、そこにおいてもなんらかの貢献ができているという気づきを得てほしいのです。

青年 じゃあ、こんな場合はどうです? 結婚もせず、仕事を失い、友を失い、人付き合いを避けたまま、親の遺産だけで生きている男がいたとしましょうよ。彼は「仕事のタスク」「交友のタスク」「愛のタスク」のすべてから逃げているわけです。こんな男でさえ、なんらかの共同体に属しているといえますか?

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嫌われる勇気

岸見一郎 /古賀史健

「世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる」――古都のはずれに、そんな持論を語る哲学者が住んでいました。人間関係に苦悩し、人生の意味に悩む「青年」は、到底納得することができず、その真意を確かめるべく哲学者(哲人...もっと読む

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コメント

porpor35 「われわれが対人関係のなかで困難にぶつかったとき、出口が見えなくなってしまったとき、まず考えるべきは「より大きな共同体の声を聴け」という原則」 4年以上前 replyretweetfavorite

fujinejima 『誰かにほめられたいと願うこと。あるいは逆に、他者をほめてやろうとすること。これは対人関係全般を「縦の関係」としてとらえている証拠。』⇒ 4年以上前 replyretweetfavorite

starkbogen 「人が他者をほめるとき、その目的は「自分よりも能力の劣る相手を操作すること」」ここ重要。でも俺霧島くんになら「よくできました」って言われてもいい(クズ 4年以上前 replyretweetfavorite

mm0905 まず考えるべきは「より大きな共同体の声を聴け」という原則です。⇒ 4年以上前 replyretweetfavorite