使える哲学

フランスの高校生が受験する「バカロレア」哲学試験に挑戦!

「真理を断念することができるか」──。欧米の、とりわけエリートの間では、哲学は必須の教養だ。中でも欧州の哲学大国として知られるフランスでは、文系理系を問わず大学進学希望者の必須科目として哲学の試験が課せられる。
ここまでで押さえた哲学の力のベースとなる思考法と知識(教養)をフル活用して、その過去問に挑戦してほしい。

 フランスには「バカロレア」という試験がある。この試験は高校卒業資格であると同時に、大学への入学資格でもある。フランスの大学は原則無試験のため、この取得が大学への“パスポート”になるからだ。

 バカロレアで課される科目の中で、特に目を引くのが「哲学」だ。毎年6月に行われる試験の初日、最初の科目が哲学である。日本に置き換えれば、センター試験初日の最初の科目が哲学といえ、いかに重きが置かれているかが分かる。

 しかも、「普通バカロレア」と呼ばれる大学進学希望者の多くが受験するコースでは、文科系・理科系共に哲学は必修となっている。

 毎年、この時期のテレビのニュースや新聞では、その年の哲学の試験問題を大々的に取り上げるのが恒例行事で、問題の解説と模範解答がマスコミのサイトに掲載される。気になるのは問題の中身。例えば、2018年の文科系の試験では以下の3問が課せられた。

[1]文化はわれわれをより人間的にするのだろうか?
[2]真理を断念することはできるか?
[3]以下のテクストを説明せよ。


(ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』からの抜粋)

 「高校生がこんな難しい問題を解くのか!」と驚く読者も少なくないだろう。だが、フランスの高校生もぶっつけ本番で解くわけではない。フランスでは高校3年生になると、必修科目として哲学の授業が組まれる。つまり、1年間かけて問題への解答法を学ぶのだ。

 特に、ディセルタシオン(小論文)と呼ばれる[1][2]の問題は、解答の方法が詳しく決まっている。良いディセルタシオンとは、自由な発想で書かれたものではなく、あらかじめ決められた方法で問題を分析し、導入、展開、結論するという議論の型にきっちりとはめ込まれたものである。その意味では、バカロレア哲学試験は、本特集のパート1(連載第2回第9回)で見た「思考の型」の習得を評価するものといえる。

 問われているのは文才や自由な思考ではなく、この「型」に従って問題を分析し、論述する能力なのだ。それは、反対意見の合理性も踏まえた上で、自分の意見の正当性を主張するという、民主主義社会の市民として必要な資質を育む教育に基づいている。

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週刊ダイヤモンド 2019年6/8号 [雑誌]

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ダイヤモンド社; 週刊版
2019-06-03

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「物事の本質は何か?」「人間とは何か?」「正しいとは何か?」──。そんな答えの見えない難問に、人は2500年にわたって挑んできた。この間、連綿と培われてきた哲人たちの洞察や思考スキルが、ビジネスや仕事に使えないはずがない。先の見えない...もっと読む

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