使える哲学

AI】第一線の開発者が解き明かす 人工知能開発に不可欠な哲学

筆者は哲学の研究者ではなく、ゲームAI(人工知能)開発者である。ここでは、人工知能の開発者の目線で、哲学がなぜ“実用”として必要なのかを明らかにしよう。

 AI──、人工知能とは何か? 実は現在、その明確な定義はない。なぜなら「知能とは何か?」という本質的な問いの答えを、われわれはいまだ持たないからだ。

 人工知能という学問の最大の特徴は「基礎がない」という点だ。つまり、「知能とは何か」という基礎が分かれば、数学的に理論を構築できるが、それがあいまいであるため、ど真ん中の問いを保留して、応用として周辺の知的機能や技術にばかり傾注している。

 人工知能の歴史は60年ほどしかない。その間、「外」に向かって人工知能(であろうもの)を実装しつつ、「知能とは何か」という「中心」に向かってようやく学問の基礎も掘り進め始めた、というのが人工知能研究の今の姿である。

 では、なぜ本質的な答えが必要なのか? その理由は、ほかのものづくりと比べると分かりやすい。

 例えば、電子レンジ(携帯電話でもPCでも何でもいい)を作ることと、どこがどう違うのか。電子レンジは「マイクロウエーブが出て、対象の水分子の……」という科学的根拠に基づいて設計される。つまり、機能と性能が完全に科学、工学で定義されている。では、知能を作るに当たって、われわれはその機能や性能について、十分に知っているのだろうか?

 「推論する」「思い出す」「イメージする」「絵を描く」「小説を書く」「電車に乗る」「穴を掘る」「野菜を育てる」……。電子レンジと異なり、知能の機能を列挙していけば切りがない。

 そして、何がどうなって、そのような能力が発揮できているかという原理についての知識も十分ではない。さらに「意識」や「経験」など、電子レンジでは表れなかった問題まで出てくる。

 一方で「ちまたに人工知能をうたう商品が売り出されているではないか」と首を傾げる読者もいるはずだ。それらは、先ほど列挙した「知的機能の一部を実現したもの」を、取りあえず人工知能と言ってしまおうという、人工知能の最も広い定義で、「機能型人工知能」と呼ぶものだ。

 だが、われわれが真に実現したいのは「知能そのもの」ではなかったのか? 知能の原理を知り、それを実現することであらゆる知的能力を持つ人工知能を作る──。この立場が、最も狭い人工知能の定義、「汎用型人工知能」だ。

 人工知能の研究者、開発者により、さまざまな人工知能の定義があるが、おおむねこの二つの定義の間に位置付けられている。筆者が目指す人工知能は狭義の「汎用型」である。

デカルト的な世界観だけでは
AI開発に限界

 「汎用型」の人工知能開発は、端的に言えば「本物の知能を作りたい」ということだ。

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ダイヤモンド社; 週刊版
2019-06-03

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「物事の本質は何か?」「人間とは何か?」「正しいとは何か?」──。そんな答えの見えない難問に、人は2500年にわたって挑んできた。この間、連綿と培われてきた哲人たちの洞察や思考スキルが、ビジネスや仕事に使えないはずがない。先の見えない...もっと読む

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