18世紀プロイセンの哲学者、イマヌエル・カントは私たちの心のうちにある道徳の美しさを星空に喩えた。
素敵な表現だが、看過してはいけないのは、カントが天体と対比して道徳に法則性を求めている点だ。果たして、道徳にも法則性があるのだろうか。こう自問した瞬間に、その人のうちで「哲学」が始まる。
カントは、私たち皆に当てはまる普遍的法則があるはずだと考えたのだが、彼のように、道徳について哲学を行う学問を「道徳哲学」あるいは「倫理学」と呼ぶ。
カントは道徳哲学や倫理学に関する著作の中で、「守るつもりのない約束をすべきではない」「うそをついてはならない」「私たちには困っている人を助ける義務がある」「自分の才能を伸ばさないといけない」などと主張した。このように、道徳や倫理は、「べきではない」「ならない」「義務がある」「いけない」と表現されるというところに特徴がある。
ただし、こうした道徳や倫理の主張は、私たちが家庭や小学校の「道徳の時間」で習うことであり、決して哲学ではない。カントのすごさは、単に主張したのみならず、その先、なぜそうなのかまで考え抜いたところにある。
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