なぜ「わたし」にしか関心がないのか
哲人 では、具体的に考えていきましょう。ここではわかりやすく、「自己への執着」という言葉を、「自己中心的」と言い換えます。あなたの頭のなかにある自己中心的な人とは、どんな人物でしょうか?
青年 うむ、まず思い浮かぶのは、暴君のような人物ですね。横暴で、他人の迷惑など顧みず、自分の都合しか考えない。世界は自分を中心に回っているのだと考え、権力や腕力に任せて、専制君主のように振る舞う。周囲にとっては、迷惑甚だしい人物です。ちょうど、シェイクスピア劇のリア王などは典型的な暴君タイプでしょう。
哲人 なるほど。
青年 一方、暴君ではなくとも、集団の和を乱すような人物もまた、自己中心的といえます。集団行動ができず、単独行動を好む。遅刻をしたり約束をすっぽかしても反省しない。ひと言でいえば自分勝手な人物ですね。
哲人 たしかに、自己中心的な人物に対する一般的なイメージは、そのあたりでしょう。しかし、もうひとつのタイプを付け加えておかねばなりません。じつは「課題の分離」ができておらず、承認欲求にとらわれている人もまた、きわめて自己中心的なのです。
青年 なぜです?
哲人 承認欲求の内実を考えてください。他者がどれだけ自分に注目し、自分のことをどう評価しているのか? また、自分になにをしてくれるのか? 自分の欲求を満たしてくれるのか? ……こうした承認欲求にとらわれている人は、他者を見ているようでいて、実際には自分のことしか見ていません。他者への関心を失い、「わたし」にしか関心がない。すなわち、自己中心的なのです。
青年 じゃあ、わたしのように他者からの評価に怯えている人間もまた、自己中心的だというのですか? これほど他者に気を遣い、他者に合わせようとしているのに!?
哲人 ええ。「わたし」にしか関心がない、という意味では自己中心的です。あなたは他者によく思われたいからこそ、他者の視線を気にしている。それは他者への関心ではなく、自己への執着に他なりません。
青年 しかし……。
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