使える哲学

米津玄師はニーチェ、星野源はアリストテレス!? 哲学で読み解くJポップ

皆が口ずさめるような歌謡曲がなくなって久しいが、それでもJ-POPは日本の“売れ線”だ。その歌詞に着目したユニークな哲学研究をする戸谷洋志・大阪大学特任助教によれば、人気曲の歌詞には、哲学に連なる普遍的テーマが隠されている。

 2018年の大晦日、NHK紅白歌合戦に初出場した若者のカリスマで、シンガーソングライターの米津玄師。自身初のテレビ生出演において、同年最大のヒット曲となった「Lemon」を披露した。

 国民的なJ-POP(Jポップ)に上り詰めた「Lemon」は、広い音域で短調と長調を行き来するメロディーに乗せられた歌詞において悲痛な恋が切々と歌われる。

 一方、「Lemon」と対照的なのが、16年のヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、通称「逃げ恥」の主題歌で、同年の紅白にも出場した星野源のヒット曲「恋」だ。自身も主役でドラマに出演したが、「恋」はドラマと同じく、生活感を大事にした明るいラブソングだ。

 「Lemon」と「恋」。その対照的な歌詞を比較すると、哲学の普遍的なテーマの一つ、「愛とは何か」という問いに対する過去の偉人たちの考え方に連なっていると、Jポップの歌詞で哲学的な分析をし、社会現象を読み解く研究を行う戸谷洋志・大阪大学特任助教は指摘する。

愛は等価交換だ
と喝破したアリストテレス

 戸谷氏によれば、ヒット曲を繰り返し聞き、その歌詞が自分の中に取り込まれることで、自分がいま何を感じ、何を考えているのかが、明確になるという。

 自分が常々感じていたことは歌詞で表現されている感情と同じだったんだと悟ったり、歌詞の中の出来事を疑似体験したり、歌詞を通して取り込まれた感情や体験が蓄積され、相互につながっていく──。その結果、自分自身の内面のみならず、自分と他人、自分と社会との関わりをより深く考えられるようになる。「それこそが知識やうんちくを超えた哲学的教養になる」と戸谷氏は言う。

 さて、「Lemon」と「恋」の話に戻ろう。

 「恋」の歌詞を分析すれば、ずばり哲学の王道、アリストテレスの愛が歌われていることが分かると戸谷氏。

 「アリストテレスの考える愛とは、『ニコマコス倫理学』などに見られるように、“正義”です。そして、その正義は『等価交換』を意味します。愛とは、パートナーとの間で等しいものを交換し合い、一緒に生活し、その生活を維持できることなのです」

 つまり、パートナーのどちらかが不公平感を覚えたり、つらくなったりするのは、アリストテレス的に言えば「愛じゃない」のだ。

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「物事の本質は何か?」「人間とは何か?」「正しいとは何か?」──。そんな答えの見えない難問に、人は2500年にわたって挑んできた。この間、連綿と培われてきた哲人たちの洞察や思考スキルが、ビジネスや仕事に使えないはずがない。先の見えない...もっと読む

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