使える哲学

賢人たちの言葉講座 #1 古代ギリシャ ~2500年の知の営み 出発点となった“3師弟”

【哲学者は何を語ってきたか】
いざ哲学を学ぼうとして、あまりの難解さに挫折した人も多いはず。だが、心配は無用だ。人物と歴史を軸に、その思想を分かりやすく解説する。

 西洋哲学は、古代ギリシャのイオニア地方(現在のトルコ南西部)において、神話とは異なる形で「万物の原理は何なのか」を考え始めた人々が現れたことが、その始まりである。

Science Photo Library/アフロ

 古代ギリシャの世界では、ホメロスの『イリアス』や『オデュッセイア』などの叙事詩に出てくるような神話が共通の世界観だった。当時のギリシャ人は、神々が世界の自然現象を引き起こしていると信じ、人間の感情や欲望も神から吹き込まれたものだと考えていた。世界で起きるさまざまな出来事は、神々の物語として理解されていたのだ。

[イオニア学派]
万物の原理を理性的に説明する

 こうした神話的な世界観を打ち破ったのが、イオニア地方の自然哲学者たちだった。最初の哲学者とされるタレスは「万物の根源は水である」と唱え、その後も続々と、万物の原理を理性的に探求する人々が現れたのだ。彼らイオニア学派の自然哲学者たちは、神話的な説明でよしとせず、目の前の現象を観察し、それがなぜ起こるのかを合理的に説明しようとした。ではなぜ、哲学がイオニア地方で産声を上げたのだろうか。

 その理由の一つは、イオニア地方がもともとギリシャの植民地で、古代オリエント文明と接する東西文化の交流地点であったことに求められる。地域によって異なる神話では、普遍的な説明にはならない。異文化の交流が盛んだったイオニア地方をはじめとしたギリシャの植民地では、自文化だけに通用する神話ではなく、誰もが納得できる原理を求めたのだろう。

[ソフィスト]
真理なんて二の次
言論の力こそ全て

 一方、ギリシャ最大の都市国家として発展したアテネでは、民主政治が隆盛する。それに伴って、アテネ市民の中では、人々を説得する弁論の力が幅を利かせるようになっていく。

 当時、弁論術に長けた者は、ソフィスト(ソフィア=知恵のある人という意味)と呼ばれ、多額の報酬を受け取って弁論テクニックを人々に教えていた。自己啓発のオンラインサロンで、お金を稼ぐのと似ているかもしれない。

 説得や論破を主眼とするソフィストたちは、普遍的な真理や正義を否定し、何事も人それぞれという相対主義に基づいて説得術や弁論術を市民に売り込んでいった。こうしたソフィストたちの言論の流行に伴って、アテネの市民社会は、巧みな弁舌で議論に勝って権力を握ることをよしとする風潮が強くなっていき、現代でいうポピュリズムへと傾いていった。

[ソクラテス]
賢人を称する者こそ無知を露呈している

 こうした世の風潮に抗い、問答を通じて普遍的な真理や善を探求したのが哲人、ソクラテスである。

 あるときソクラテスの友人が、デルフォイという神殿で「ソクラテス以上の賢人はいない」との神託を受けた。ソクラテスはそれを聞いても、自分が賢いとは思っていなかったので、その神託が間違っていることを証明しようと、政治家や作家などアテネ中の賢人を次から次へと訪ね歩いた。

 ソクラテスは、問答や対話を重ねるにつれ、彼らは普遍的な真理や善など知らず、ただ自分で知っているように思い込んでいるだけであることに気付いた。対してソクラテスは、少なくとも「自分は何も知らないことを誰よりも知っている」。これが有名な「無知の知」である。

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ダイヤモンド社; 週刊版
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「物事の本質は何か?」「人間とは何か?」「正しいとは何か?」──。そんな答えの見えない難問に、人は2500年にわたって挑んできた。この間、連綿と培われてきた哲人たちの洞察や思考スキルが、ビジネスや仕事に使えないはずがない。先の見えない...もっと読む

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