脳性まひ者だって心が風邪をひく

心身ともに限界を感じ始め、仕事を継続するか迷いはじめた福本さん。かかりつけ医には、心療内科の受診を進められます。そんな折、島根県の小中学校での講演の依頼を受けます。今回は、「もう、あかん」というときに支えとなった、子どもたちとの交流について語ります。

勤務六年を過ぎたあたりから、私は無理やりがんばる自分に気づいていた。気力で体力をカバーできるお年頃ではなくなっていた。これを「加齢による障害の悪化」とか「脳性まひの二次障害」という人もいる。が、それは、無理しない環境に心身を戻してみてからの仮説。私はとっさに声が出せない。職場では思いや真意を言葉にできないまま、別の話題に変わることも多かった。毎日の勤務ではなかったので、議論の末に決まったことが、いつの間にか覆っていたこともあった。結局、ここもお声の大きい方の言うことが通るんじゃん。話すのが虚しくなった。それに、世の中、言葉一つがいざこざも嫌悪感も招く。話すのが怖くなった。私、透明人間になりたい。

まあ、働いていればストレスもたまるわけよね。「おかん、酒もたばこもしないもんな。ストレス発散言うてもやろ」息子がぼそっと言った。でも、社会に出て知った。言語障害がなくても、声が出せずつらい思いをしている者は数多くいる。溝だらけの社会なのだ。知らぬ間に心が傷つき、たえず緊張状態になり、体に痛みというダメージをあたえる。痛み止めを飲み、その副作用で吐く。そんな悪循環をくり返した。それでも、最初はストレスが痛みとなって体に現れたことに気づけなかった。いつもの循環器内科を受診すると「えっ、薬の量が増えた? 食べられへん? 君痩せたね。薬かえてみるか? でも、うちはこれ以上、薬の工夫もできへん。緊張はストレスもあるんとちゃうか? 心療内科にトライしてみるか? 心だって風邪ひくこともあるしな」と懇意にしているドクターを紹介してくれた。

「夏の冷房が入る前にこれではあかんなー。今仕事もあまりないし、職場からぼちぼち……」と息子に話す。退職の二文字が頭をよぎっていた。「おかんの好きにしい。とりあえずその病院行ったら? ちょっとでも吐きだせたら、なにが原因かもわかると思うで。あっ、俺か?」「そうかも! あははは」

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障害マストゴーオン!

福本千夏

脳性まひ者の福本千夏さん。 50歳にして就職して、さまざまな健常者と関わる中で、感じた溝を語ります。

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