嫌われる勇気

第四夜 vol.1 青年は拒絶する。「だまされません! アドラーの思想は人を孤立へと導く!」

第三夜で「課題の分離」なる概念を聞かされた青年は、一週間の熟考を重ねた末、哲人の主張に大いなる疑問を抱くようになりました。「個人心理学」との正式名称を持つアドラー心理学は、つまるところ個人主義を推奨する孤独の哲学ではないかと。これに対して哲人は、アドラー心理学の鍵となる概念である「共同体感覚」という言葉を持ち出します。第四夜、ついにスタートです。

 危うくだまされるところだった! 翌週、青年は憤然たる面持ちで扉を叩いた。たしかに課題を分離する、という発想は有用だ。前回はまんまと納得してしまった。けれど、それはあまりに孤独な生き方ではないか。課題を分離し、対人関係の荷物を軽くすることは、すなわち他者とのつながりを失うことではないのか。果てには他者から嫌われろだと? もしもそれを自由と呼ぶのなら、わたしは不自由であることを選ぶ!


個人心理学とはなにか?

哲人 おや、どうもむずかしい顔をされていますね。

青年 課題の分離について、それから自由について、あれからひとり落ち着いて考えてみました。感情が静まるのを待って、理性の頭で。それでもやはり、課題の分離には無理があります。

哲人 ほう。お聞かせください。

青年 課題を分離すること。それは結局「わたしはわたし、あなたはあなた」と境界線を引いていくような発想です。たしかに対人関係の悩みは減るでしょう。しかし、そんな生のあり方が、ほんとうに正しいといえますか? わたしにはきわめて自己中心的な、誤った個人主義としか思えません。たしか最初の訪問時、アドラー心理学の正式名称は「個人心理学」だとおっしゃいましたよね? その名前がずっと気になっていたのですが、ようやく合点がいきましたよ。要するにアドラー心理学、すなわち個人心理学とは、人を孤立へと導く個人主義の学問なのでしょう。

哲人 たしかにアドラーの名付けた「個人心理学」という名称は、誤解を招きやすいところがあるかもしれません。ここで簡単に説明しておきましょう。まず、個人心理学のことを英語では、「individual psychology」といいます。そしてこの個人(individual)という言葉は、語源的に「分割できない」という意味を持っています。

青年 分割できない?

哲人 要するに、これ以上分けられない最小単位だということです。それでは具体的に、なにが分割できないのか? アドラーは、精神と身体を分けて考えること、理性と感情を分けて考えること、そして意識と無意識を分けて考えることなど、あらゆる二元論的価値観に反対しました。

青年 どういう意味です?

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嫌われる勇気

岸見一郎 /古賀史健

「世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる」――古都のはずれに、そんな持論を語る哲学者が住んでいました。人間関係に苦悩し、人生の意味に悩む「青年」は、到底納得することができず、その真意を確かめるべく哲学者(哲人...もっと読む

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コメント

loveandzero 【心理学】相手を「敵」ではなく「仲間」と考えることが共同体感覚へとつながる。 3年以上前 replyretweetfavorite

gotoichi1003 他者と距離をとって、絡まった糸を解きほぐすのか。現実変える話→ 4年以上前 replyretweetfavorite