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「は? 何だよ急に」
「〝お金〟を定義しましょうという話です。何事もそうですが、題材を定義するからこそ、正しい議論ができます。もちろん数学もそうです」
「言っている意味がサッパリわからん」
ここまでお金についてこれほど対話してきて、いきなりの〝そもそも論〟。どういうことだろう。翔太は戸惑いを苦笑いで表現した。
「いいから答えてみてください。お金とはいったい何か?」
「モノを買う時に使うもの、とか」
「反例を挙げます。たとえば、募金はモノを買うという行為ではないと思いますが」
「ちぇっ、理屈っぽいなぁまったく。定義? そんなのどうでもいいじゃないか」
「大人として残念ですね。その発言は」
どこまでも上から目線の詩織に苛立つ翔太。自分なりの答えを持っているくせに、あえて俺に質問してくる。考えがあるのなら、自分からどんどん言えばいいはずだ。なんでコイツはいちいち対話を仕掛けてくるんだ? 翔太はそんなことを考えながら、あえて無言を貫く。
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