しかし、毛沢東は歴史の勝者である。
彼の思い込みに基づいた中華風味の共産主義は、やがて『実践論』や『矛盾論』といった論文にまとめられ、それなりに体系的な装いを持つようになった。モスクワ留学帰りの陳伯達が論文のゴーストライターを担当したともいう。結果、「毛沢東思想」は(少なくとも形式上は)いまだに中華人民共和国の国家的イデオロギーであり続けている。
そして、皇帝・毛沢東がお墨付きを与えた「常識」の一部も、やはりその後の中国にしっかりと受け継がれた。例えば、湖南省の農民運動や1960年代の文化大革命で見られたような、政治的なスローガンを利用して対象に暴力的な集団制裁を加える「ごろつきの運動」と、それに便乗して日頃の鬱憤を解消しようと考える中国人の庶民意識がそうだ。
2012年の8月から9月にかけて中国各地で起きた、日系企業の焼き討ちや商店への破壊・略奪を伴う暴力的な反日デモは、その象徴的な事件だと言えるだろう。デモがもっとも過激だった9月15日には、陝西省の西安市で、「日本車に乗っていた」という理由だけで中国人の中年男性が暴行されて半身不随に陥ったり、日本製のジャケットを着た中国人学生の服が引き裂かれるなど、同胞までも標的にした集団ヒステリー的な事件まで発生している。
規模はやや小さかったものの、2005年や2010年の反日デモでも、同様の事態が起こった。