障害者というのはシカトされるか、祭り上げられるか、どちらかなのかな
——ついに本ができました。去年の秋口から原稿執筆をはじめましたが、この本の気に入っているところはなんですか?
福本千夏(以下、福本) 確かに時間はめっちゃかかった。なんどもなんども書き直し、その都度自分を客観的に見て、自分と他人の間で起きたことを文字化していく。それは成長を求められることでした。だから、普通のエッセイとして楽しく読める。知らないことが知れる。共感して頂ける本になったと。加えて、編集者や本のデザイナーさんと心を合わせて作れたこと。著者の腹黒さをカバーするみたいに(笑)、表紙も中の細部もかわいいイラストがたくさんある。
——表紙をめくると現れる、扉のこの絵が印象的です。福本さん自身はまったく同じ絵ですが、周りの様子が一変します。この扉の絵は、現実的な絵だと思っています。デザイナーさんが最初「ほんとにこれでいくんですか?」と電話をくれたくらい、健常者から見ると辛辣かもしれません。福本さんはどうでしょう?
↑表紙の絵(左)と、表紙を開いて現れる絵(右)。福本さん自身は同じだが、周囲の様子が一変する。
福本 正直私。編集さんから「ほんとにこれでいくんですか?」とデザイナーさんから電話があったんですが、と聞いた時、なにを言ってるのか意味がつかめなかった。扉の現実的な絵は障害者にとっては日常。とっても気に入ってる表紙の絵はおとぎ話。「ショー(ショーガイ)マストゴーオン」なんていう世界は現実にはありえない。
まあ障害者というのはシカトされるか、祭り上げられるかどちらかなのかなと思ってます。私は60歳前のおばちゃんなんで、どっちもありがたい。気付かないふりをしてくれてありがとう。だし、もし、私の声で一緒に盛りあがってくれるような夢の場所があれば、もうそれは、最高にありがとうです。現実がなければ夢は存在しないわけですし。
こちらを向いていない人たちに語りかけたい
——この本の難しいところは、まさにこの扉のイラストの通り、気づかず・目を向けず歩いている人が大半のなかで、声をあげている本だというところです。最初から読者がたくさんいて、その人たちに読んでもらう本ではないです。でも、ここで声を発していることがわかれば、気づいてくれる、見てくれる人たちはいっぱいいるはずだと思っています。
福本 シカトされようと、気づかないふりをされようと、私は声をあげないと生きていけない。自分を解明して相手に説明してようやく生存できている。ここで気付くのは、本来人間ってみんなそう。ただそれを意識しないでやっていける人が、健常者ってくくられるだけで。障害者は、理不尽な目にも合いやすいけれど、人の情もたくさん感じて生きてる。読者さんにはその温かさも一緒に感じて頂ければと思います。
れいわの2議員が誕生したときに
——この本の編集中に起きた一番大きな出来事は、れいわの2議員の誕生でした。しかもおりしも、福本さんはちょうど退職をされようとしていたところで……。あのニュース、どのように見ていましたか。
福本 あの時知人と議論になった。「言葉が発しにくい方がよりによって政治家? あかんやろー」って言われて、「だったら何ならいいわけ?」「だって答弁の時間って限られてるし、税金が……」「はあ? 彼は政治家に選ばれたんだよ。税金がなに? みんななにかしら税金払って社会の恩恵を頂いているわけやん。今それを言うのはただのやっかみだわ」って声を荒らげたのを覚えています。
そりゃーなりたいものになれる人生をみんな歩めるわけじゃない。でも人生は一度っきり。あの頃、私も働きながら書いて家のことも回すことが限界に来ていた。ちょうど仕事も少なくなっていた時期だし、あっこのタイミングかなって。体力が年々落ちていく私にとって、仕事を手放すか出版のチャンスを逃すかの選択。私はなにかに選ばれるなんて大それたことはないだろうから、せめて自分の人生は自分で選ぼうって退職を決めた。
職場でのこと、親や子との関係―。だれかとかかわるということは、障害の有無には全く関係ない、普遍的なこと
——この本の魅力の一つが、「これって私もだ」と、障害が有っても無くても思えることが書いてあるところだと思っています。福本さんはどうでしょうか。
福本 誰かと関わって嫌な思いをする。あるいは心が躍る。気持ちが落ち着く。頑張れる元気が出る。これは障害があろうとなかろうと関係ないてす。でも、この感情は場面や立場や相手によって違ってくる。だから厄介なのです。そしてね。今の社会はなんだか「傷ついた」と、叫んだらいいみたいな風も吹きだしています。いやー足ふまれた方は痛いですからね。踏んだ方はわからないですよ。叫ばんと。ですが、昔は「痛い」「ごめん」で片付いていたようなことでも、今は相手が本当にわかりづらい。溝社会なんです。
私が職場の同僚と親や子供と向き合って感じたことは、読者の皆さんに「私もだ」って感じて頂ける部分もあるかと。その溝についてどう感じどうしてほしいかを考えるきっかけになればと切に思います。
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