嫌われる勇気

第三夜 vol.4 青年は狼狽する。「違う! それは悪魔の思想だ!」

前回、哲人は「ゴルディオスの結び目」の例を引き合いに、複雑に絡み合った対人関係の「しがらみ」は一刀両断に断ち切るしかない、と説明しました。それが、良好な対人関係を築き、自由になるための第一歩なのだ、と。しかし、どうしても机上の空論にしか聞こえない青年は、ついに溜まりに溜まった怒りを爆発させます——。

 哲人の語りはじめた「課題の分離」は、あまりに衝撃的な内容だった。たしかに、すべての悩みは対人関係にあると考えたとき、課題の分離は有用だ。この視点を持つだけで、世界はかなりシンプルになるだろう。しかし、そこには一滴の血も通っていない。人としての温もりが、いっさい感じられない。こんな哲学など受け入れてなるものか! 青年は椅子から立ち上がり、大きな声で訴えた。


承認欲求は不自由を強いる

青年 わたしはね、昔から不満だったんですよ! 世間一般の大人たちは、若者に向かって「自分の好きなことをやれ」といいます。いかにも理解者のような、若者の味方のような笑顔を浮かべてね。しかしこれは、若者が赤の他人で、なんら責任を問われない関係だからこそ出てくる、口先の言葉です!
 一方、親や教師が「あの学校に入りなさい」とか「安定した職業を探しなさい」と具体的で、おもしろくない指示をするのは、単なる介入ではありません。むしろ、責任を全うしようとしているのです。自分にとって近しい存在であり、相手の将来を真剣に考えているからこそ、「好きなことをやれ」などと無責任な言葉が出てこない!
 きっと先生も理解者のような顔をして、わたしに「自分の好きなことをやりなさい」とおっしゃるのでしょう。ですが、わたしはそんな他人の言葉は信じません! それは肩についた毛虫を払いのけるような、無責任きわまりない言葉だ! たとえ世間がその毛虫を踏みつぶしたところで、先生は涼しい顔で「わたしの課題ではない」と立ち去っていくのでしょう! なにが課題の分離だ、この人でなしめ!

哲人 ふっふっふ。穏やかではありませんね。要するにあなたは、ある程度は介入してほしい、自分の道を他人に決めてほしい、というわけですか?

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嫌われる勇気

岸見一郎 /古賀史健

「世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる」――古都のはずれに、そんな持論を語る哲学者が住んでいました。人間関係に苦悩し、人生の意味に悩む「青年」は、到底納得することができず、その真意を確かめるべく哲学者(哲人...もっと読む

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kusanagikenta 「嫌われたくない」という欲望と「嫌われても構わない」という意思。意思によって欲望を調伏した時、自由が訪れる。|嫌われる勇気|古賀史健 @fumiken /岸見一郎 https://t.co/Mdp3ncwTp4 4年以上前 replyretweetfavorite

fumiken 【嫌われる勇気】7日間無料。課題の分離から出発した哲人が語る「自由とはなにか」の答えとは? 4年以上前 replyretweetfavorite

shingo612 https://t.co/ctwFZsXsEr この連載おもしろい。 4年以上前 replyretweetfavorite

mm0905 哲人 すなわち、「自由とは、他者から嫌われることである」と。(←本文より) 4年以上前 replyretweetfavorite