クリティカルシンキングとは何か。一口で言うと「主張をきちんと吟味する」ことである。
基本としては次の三つを行う。
(1)議論の明確化
(2)前提の検討
(3)推論の検討
この三つをはっきりさせ、(2)や(3)が本当に妥当なものかどうか点検する。ビジネスマンがそのスキルを実践するには、何に気を付けるべきか。
一般的な議論の構成要素には、主張(「結論」)とその理由となる主張(「前提」)、それに前提と結論をつなぐ「推論」がある。
簡単そうに見えるため意外におろそかにされがちなのは、主張の内容を正確に捉えることだ。ほとんど同じ結論に見えても、微妙な差で全く違う結論になることがある。結論が違えば、その結論を導き出すために求められる理由や根拠(前提)も変わってきてしまう。
そうした結論の文末の言い回しと、それに対応する根拠をまとめたものが下表である。
次の主張を例に、具体的に確認しておこう。これらは似たようでいて、内容はそれぞれ全く違う。
[主張1]アラブ人は全て米国の政策に反対する。
[主張2]アラブ人の中では米国の政策に反対する人の方が多い。
[主張3]アラブ人は米国の政策に反対することがあり得る。
[主張4]アラブ人は米国の政策に反対するのが必然的である。
[主張5]アラブ人は米国の政策に反対してもよい。
それぞれの主張をサポートするために、どんな根拠が必要となってくるか。[主張1]は一人でも反対しない人がいたら成り立たない。[主張2]を主張したいのであれば、アラブ人全体の傾向が分かる何らかの統計的データが求められる。他の人々より多いというなら、例えば日本人などとのデータ比較も必要だ。
これに対して、[主張3]であれば、現実のアラブ人を引き合いに出す必要すらなく、「こういう状況に置かれたら反対するだろうといった思考実験」(シミュレーション)をやってみるだけでいい。[主張4]は[主張1]よりも強い主張で、現実のアラブ人が皆反対していると示した上、アラブ人に関するシミュレーションを行い、反対しないアラブ人は存在し得ないことを示さなくてはいけない。
[主張5]は「価値判断」と呼ばれるもので、こうした主張の根拠としては現実のデータもシミュレーションも必要ない。必要なのは、どういう前提条件が成り立つ場合に「反対してもよい」かという一般的な価値基準を見つけ、それが現実のアラブ人に当てはまっているかどうかを判断する。
結論を理解し、どういう根拠が挙げられているか分かったら、次にすることは、推論の流れをはっきりさせることである。そこでは「接続詞」が重要な役割を果たす。
上表を見てほしい。二つ以上の前提が一つの結論を導いているとき、「また」などが使われるのは「単純並列型」、「そして」「かつ」などの場合は前提がつながっている「組み合わせ型」であることが多い。
組み合わせ型の結論を覆したいときは、つながっている根拠の一方に反論すれば結論は覆る。それが単純並列型の場合、全ての根拠に反論しないといけない。
接続詞で分かる議論の構造の違いは、反論を考える戦略に関わってくる。基本ポイントとして押さえておこう。
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