使える哲学

サンド」と「ナイツ」に学ぶ 笑いが生まれるロジック

人はなぜ笑うのか。どこを面白いと感じるのか。「笑いの哲学」に詳しい桜美林大学リベラルアーツ学群の田中一孝講師の分析を基に、お笑い芸人が笑いを生み出すメカニズムとスキルを見ていこう。

 笑いのメカニズムについては、哲学の世界ではさまざまな理論が考案されてきている。

 主な理論を二つ紹介しよう。「優越説」「不一致説」である。優越説とは、私たちには自分よりも劣った対象を笑いたいという本性がある、というものだ。

 イングランドの哲学者トマス・ホッブズによれば、「笑いの情動とは、勝ち誇りに他ならず、他者やかつての自分の欠点に目を向け、今の自分の方が卓越していると思える」ときに生じるという。私たちは他人の失敗や欠点を笑うのだ。

 お笑いは、他者の欠点を笑いたいという私たちの欲求に応えてくれる存在だ。現実世界で劣った人間を見下して笑うのは俗悪だが、お笑いではそれが許される。なぜなら、お笑い芸人は愚かで間抜けに振る舞うが、それはあくまでも演技だからだ。本当に見下しているわけではない。だから、私たちは周りの人に俗悪だと思われずに安心して笑える。

 もう一つの不一致説というのは、文脈や論理的な展開において予想が裏切られ、そこでの「ズレ」が認識されたときに、笑いが生じるというものだ。この不一致説の源流にはカントがおり、同じドイツの哲学者ショーペンハウアーが不一致説の土台をつくったともいわれる。

 漫才やコントでは、ボケ役がふざけたことを言い、ツッコミ役が常識的発言をする。ボケとツッコミという役割を演じながら、論理や価値観のズレを観客に提示し、笑いを引き起こしている。

 お笑い芸人たちが、こうした優越説や不一致説を巧みに取り込みながら笑いを生んでいくプロセスを、田中一孝講師と共に分析していこう。

 まずは、サンドウィッチマンの代表的コント「ハンバーガーショップ」である。伊達みきお演じるお客(ツッコミ)と富澤たけし演じる店員(ボケ)のやりとりを見ていこう。

伊達ちょっと入ってみようか。
富澤いらっしゃいませ、こんにちは。いらっしゃいませ、こんにちは。いらっしゃいませ、こんにちは。
伊達ブックオフか。うっせぇ、何回も。1回でいいんだよ、1回で。

 私たちの頭には、ハンバーガーショップで期待される、常識的な顧客対応についての理解がある。その理解のズレが面白さを生む。

 普通は「いらっしゃいませ」というあいさつは1回で済ますものだが、店員はそれを何度も繰り返すことで、観客にまず違和感を与える。

 さらに、即座に「ブックオフか」とツッコミが入ることで、ブックオフのように複数の店員があいさつしている様を一人でこなしていたのだと、観客に理解を促す。

 丁寧ながらとんちんかんな対応のおかしさは、このコントの大きなテーマとなっている。

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ダイヤモンド社; 週刊版
2019-06-03

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「物事の本質は何か?」「人間とは何か?」「正しいとは何か?」──。そんな答えの見えない難問に、人は2500年にわたって挑んできた。この間、連綿と培われてきた哲人たちの洞察や思考スキルが、ビジネスや仕事に使えないはずがない。先の見えない...もっと読む

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