乳首はチャームポイント
【質問5】雲田先生が男の人を描くとき、BLと非BL作品で何か違いはありますか?
雲田はるこ(以下、雲田) すごく視覚的なところでいうと、「乳首のあるなし」なんですね。
紗久楽さわ(以下、紗久楽) ああ~、なるほど!
雲田 一般向けのマンガだと、キャラに乳首を描くと「邪魔」になっちゃうんですよね。読んでいると余計なものとして気になってしまう。でも、BLだと乳首がチャームポイントになるんです。だから大事に描かなければいけない。
溝口彰子(以下、溝口) BLと一般マンガの違いは、乳首にあったのか!!
紗久楽 たしかに。『昭和元禄落語心中』では、着物をよくはだけている助六さんでも、乳首って見たことないですね。
昭和元禄落語心中(3)
表紙の男性が助六
雲田 そう、『落語心中』では乳首は描かないようにしていました。もししっかり描かれていたら、すごく気になりません? そこは読み飛ばしてほしいので。でも、BLだと大切なチャームポイントなので、描く。BLと非BL、視覚的にはまず、そこの違いが大きいですね。
テーマ的なことでいうと、BLはラブストーリーなので、恋愛関係は絶対描かなきゃいけないところです。一方『落語心中』はBLではないので、どの関係が恋愛なのかをはっきりさせないまま描いていても大丈夫なんです。
溝口 なるほど。ところで、『おっさんずラブ』で「BL」という言葉に目覚めたような方たちが、「『落語心中』はBLだ」と言いたくなる理由は、やはり菊比古さん(八代目八雲)の艶っぽさが大きいのでしょうか。
昭和元禄落語心中(5)
左の男性が、若き日の菊比古(のちの八代目八雲)
雲田 キャラがBLっぽいというのはあると思いますね。キャラメイクも、BLの影響が大きいと思います。
溝口 「BLというものがあるのは知っている」くらいの方や、セルジュとジルベール(『風と木の詩』)のあたりで記憶が止まっている方からすると、菊比古さんは一般誌のキャラにしては、「女顔で線が細く美人すぎる」と感じるのかもしれませんね。
風と木の詩(3)
左がセルジュ、右がジルベール
雲田 そうかもしれない。BLっぽさをまとったキャラって、一般誌ではこれまであんまりいなかったんですかね。
紗久楽 BLの特徴のひとつに、ルックスの美しさにそんなに説明がいらない、というのがあると思うんです。もし『落語心中』がBLだったら、菊比古さんの物腰が柔らかいことや、お顔がきれいなことに、あんまり理由はいらないじゃないですか。「きれいな男性=OK!」みたいな。だけど実際には、彼が踊りの名家の出で、落語をやるには顔がきれいなのがむしろ枷になっているなど、容姿が影響を及ぼすエピソードが出てきましたよね。そういう理由が必要なところが、非BLというか、一般誌のマンガだと感じます。
雲田 確かにそうですね。無意味にイケメンではいけないのかなって思っています。
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溝口 なるほど。雲田さんは、菊比古さんが踊りのおうちの出だけど、足を悪くしちゃったので踊りはできない、というエピソードは、最初から考えていたんですか?
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