『おっさんずラブ』はるたんというキャラの凄み
溝口彰子(以下、溝口) 今回からは、事前にいただいた質問にお答えしていきます。
【質問1】ドラマ『おっさんずラブ』のヒットをどう思いますか?
紗久楽さわ(以下、紗久楽) 見てました!
雲田はるこ(以下、雲田) 私もです。私と紗久楽さんは例のごとく、カップリング一緒なんですよ。「太陽受け」※1なので、「春×牧」ではなく、「牧×春」※2です。
※1 雲田先生は、太陽みたいに明るくおおらかで体積の大きい「受け」が好き。第1回参照。
※2 牧 凌太(演:林遣都、下画像の左端)が攻め、春田 創一(演:田中圭、下画像の中央)が受けのカップリング。
紗久楽 そこ、かなり大事なんですよね。8月から映画が公開されるので、「一緒に観に行こう」と言っていた友達とも、先に「カップリングどっちだった?」と聞いて、同じ「牧×春」だったので、安心して「よし行こう!」となりました(笑)。
溝口 『おっさんずラブ』のヒットはすごく大きくて、2018年は色んな人に「BL研究者として、『おっさんずラブ』をどう思いますか?」と聞かれる機会がありました。だからしっかり見て復習しておこうと思い、『おっさんずラブ』にハマった女性の友人と、歌舞伎町のカラオケボックスでパイロット版※3と本編のDVDをおさらいすると同時に、彼女がすべての取材記事をファイリングしたものを持ってきてくれて、あらゆるインタビューを読む会をしました。
※3 本作は連ドラとして放送される約1年半前の2016年末に、パイロット版が単発で放送された。
雲田 すべての取材記事を……! さすがですね。
溝口 それでわかったことは、パイロット版のときは、ストーリーの出発点はホモフォビア(同性愛嫌悪)だったんですよね。春田の「ホモなんて気持ち悪いこと言うなよー」から始まって、最後には牧、ではなく単発版ではハセ(長谷川幸也 演:落合モトキ)とキスしても「あ、大丈夫かも」となる。また、春田に熱烈に恋する黒澤部長(演:吉田鋼太郎)の壁ドンも、パイロット版のほうはホラーのような演出です。つまり「春田のことを好きだと言ってくる部長は、ホラーの怪物みたい」という表現もあったんです。
ホスト役の溝口彰子さん
雲田 「男の俺を好きだという男」が、気持ち悪いものとして描かれていたんですね。
紗久楽 パイロット版のハセくんという男の子も、「好き」を伝える方法にすごく圧力がこもっているというか、最初の壁ドンがすごく怖いんですよね。
溝口 それが連ドラになったときには、いわゆる「ホモなんて気持ち悪い」というホモフォビアからの出発ではなくなったんです。これは、制作陣全員の合意としてあったと取材記事で語られていました。かわりにここは、「神さま、僕が希望していた運命の恋とは、少しテイストが違うような気がします」※4といったモノローグでの処理に変わっています。。
※4 『おっさんずラブ』公式サイト、第1話の内容紹介より。
また、ドラマを見返して思ったのは、もしこれがBLマンガだったら、春田は「こんな男いねえよ!」という現実感のないキャラになり、マンガ自体もちょっと奇妙なパラダイスものになってしまっただろう、ということでした。ドラマでは、BLマンガでもありえないようなキャラクターを、田中圭という非常にうまい俳優が説得力をもって演じることで、「ありえる」ように見せていたんですよね。すごいです。
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