大人に必要なのは、好きな人より便利な人

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。年を重ねるにつれ、「あと何回できるか」が不安になってきたという森さん。そんななかで魅力が増した、異性との”好き”を介さない付き合い方とはどのようなものなのでしょうか。

結婚していようが、老人になろうが、人は誰かを好きになる。しかし年齢を重ねると、好きという純粋な気持ちだけでは相手を選べなくなるだろう。結婚していて新たに恋をした場合は、夫や妻のことを考慮しなければならない。

外に刺激や恋や違う形の愛を求めたくなるのは人としての性だが、現状維持したい夫や妻に対しての愛があるなら守るべきである。夫や妻には愛想をつかしているけれど子供のために離婚はできない、という場合もやはり波風は立てないほうが無難だ。年配になってからの恋は、自分の体力や精神力を加味して行うべきだろう。

そうなると、好きになる相手は秘密を遵守してくれる人や頻繁に連絡を取り合わなくていい人、年齢や環境が似通っている人、などが望ましい。もっといえば、セックスの趣味趣向が合っている人がベストだ。だって、探り探りやっている暇も時間もお金もないのである。50歳の足音が近づいてきてから私、ひしひしと感じるのだ。あれこれ手間暇かけていられないよ、てっとり早く恋愛モードにならないと死んじゃうよ、と。

若い時は成就までがゴールだったけれど

最近は、写真だけでイエスかノーかジャッジするマッチングアプリもあるようだ(直感を鍛えるゲームみたい)。以前の私なら、そういうのって即物的で好きじゃないな、なんて斜め見していたかもしれないが、写真の印象だけで会ってみて、やってみて、サヨナラかアゲインか決めるのもアリと言えばアリかもしれない、と最近は思うようになった(やったことはないし、とりあえずやらないけれど)。

若い時は、相手の思惑を推し量ったり、気を持たせたりと、駆け引きが楽しかったし(たいてい失敗したが)、成就までがゴールだった。それ以降は惰性みたいなものだ。私自身に自覚はなかったが、自尊心が満たされればよかったのだろう。昨今はもう、ゴールの先は惰性でも次のステージでもなく、もしかしたら死?というのが洒落じゃなくなってきているので(まだ早いかな)、ゴールの余韻をできるだけ長く伸ばしたいのだ。

私は年下の若い男性には興味がない。可愛いし新鮮!と感動するのだが、あくまで傍観者としての立場だ。人として惹かれるのは同世代か年上の男性である。不潔以外であれば、ハゲだろうがデブだろうが疲れていようが無関係である。その人自身に何らかの魅力があればいい。

私と同感覚で、ピチピチの若い女性より酸いも甘いも経験した熟女を求めてくださる男性もわりといて、まあ、なんとなくいい感じになったりする。そうなると、若い人々の獣じみた衝動とはまた別に、ことにおよぶのが早い。「死ぬ前に!」「とりあえずいい時間を早く過ごそう!」「いつまでお付き合いできるかわからないし!」みたいな(これも獣っぽいかな)、まるで戦地に赴く前のようなテンションで、しかし表面上はスマートに段取りができていく。

好きという気持ちよりも優先したいもの

とはいえやるべきことは同じ、熟年同志、段取りは承知しているので目的が一致したならあとはさくさく進む。1回やれば相性もなんとなくわかるので(身も心も熟しているからね)、次がありかなしか、あるいはどこまで突っ込める相手なのか、変態性の度合い等々、これまた視線の動きや最小限の会話だけでことが運ぶ。実に便利である。足りないものは、好きという気持ちくらいだ。

え? そこが一番大事なんじゃないの? と疑問視するあなた。ええ、私だって本心ではそういったピュアな気持ちこそが大事で、究極の幸福だと身に沁みてわかっていますとも。でもね、とにかく熟年や老人には時間がないのだ。あと何回セックスできるかどうか、わからないのである。もう、好きという気持ちよりも体感が優先になっていく。

人間は勝手なもので、体力が有り余っていた頃は「別にセックスなんてどうでもいいかな、いつでもできるし」とないがしろにしていたのに、いざ体力に不安が出てきたとたんに「やれるうちにやっておかねば」みたいな強迫観念に駆られてしまう。それこそ、セックスなんて別にやらなくても困らないのに。むしろ体力や気力が消耗するのに。

SM用の首輪をして現れた知人男性
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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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