美をさがしもとめるのが生業である。
こんな美しいものをみつけた。
演劇人・山崎彬の、すべての思いを込めて入念に仕込んでいく、稽古への熱の入れよう。
発話のしかたから些細なしぐさまで、執拗に詰めていく
劇団「悪い芝居」の新作『ミー・アット・ザ・ズー』が2019年12月、東京・三軒茶屋シアタートラムで幕開けする。世田谷パブリックシアターが行う、若い才能の発掘と育成のための事業“シアタートラム ネクスト・ジェネレーション”に、公募によって選ばれ、上演の機会を手に入れたものだ。
主宰の山崎彬によって立ち上げられて15年、根強い人気を誇る演劇集団の稽古風景を、覗かせていただいた。
タイミングとしては、一編の芝居が築き上げる真っ最中といったところ。稽古場に役者やスタッフが一堂に介し、ワンシーンごとセリフや動きを確認し、ブラッシュアップしていくのを繰り返していた。
発話のニュアンス、演者一人ひとりの立ち位置、しぐさや視線の行き先……。それぞれの場面で、チェックすべきポイントは無数にある。
いま眼前では、動物園内で飼育員の男女がやりとりするシーンが演じられていた。一連のセリフと動きが展開されたあと、
「じゃここで一回止めましょうか」
山崎彬さんの声が稽古場に響いた。台本を片手に、
——冬は嫌いですか?
というセリフを取り上げて、チェックを入れる。
「ここ、一世一代のことを訊く感じで言ってみましょうか」
——好きな季節は、ないですね。
との返事のニュアンスについても、指摘をする。
「初めてそんなこと考えたな、と思いながら言う感じでいきましょう」
言葉を受けて、改めて演じられていく様子を観ると、シーンの印象がまるで変わった。役者の発話のしかた、気持ちの持ちようを一つひとつ詰めていくことは、なるほど舞台をつくり上げていくうえで必要不可欠なのだと知れた。
書いては消し……。稽古場での光景は「下書き」
「悪い芝居」はもともと京都で創作を開始し、のちに東京へと活動拠点を移した。精力的に世に問い続けてきた舞台の作風は、そのつどガラリと変わっていく。
ただし、「観客の想像力を信じ切る」という方針は不変。すべてを説明し尽くさないことからくる独特の不条理さと浮遊感は、どの舞台にも共通する。
だから、稽古でシーンごとにセリフや動きをかなり細かくつくり込んでいく様子を見て、少々驚きを感じたのだった。その熱の入りようからすると、主宰として脚本、演出、そして俳優としても出演する山崎さんには、「この作品で目指すもの、挑戦しようとしていること」が、いつもはっきりとあるのだということはよくわかる。
「いや稽古場では、試行錯誤ばかりしているだけですけどね。ここでやっていることって、絵画や漫画でいえば下書きみたいなものじゃないかな。書いては消し、書いては消して、を繰り返しているんです」
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