第4話 半沢と渋沢

文学の世界では何が起こっているのか。世界の中で文学はどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究者として、教育者として、世界文学の最先端と日々向き合っている都甲幸治さんが「21世紀の世界文学」をさまざまなトピックから紹介。あの大ヒットドラマとその原作から現代日本を読み解きます。

『半沢直樹』を見た。というと、今さらー? という声が聞こえてきそうだ。2013年に爆発的な人気を博したドラマで、最終話はなんと視聴率42.2%、「倍返しだ!」というセリフは当時、誰もが一度は口にしていた。で、僕は見ていなかった。テレビでドラマを見る習慣がないのだ。

 確かに、モノマネ番組では僕の好きな神無月さんや松村邦洋さんが登場人物たちをめちゃくちゃ真似していた。僕も見て笑っていたが、オリジナルの知識は全くなかった。むしろモノマネから、こんなものだろう、と思っていただけである。

 何というか、サラリーマンとか銀行とか興味がなかったんだよね。当時の僕はアメリカの最新小説を紹介するのに夢中で、心は日本にいなかったのだ。でも今回、友人の奨めで見て考えが変わった。というか、第1回を見ただけでぶっ飛んだ。

 何しろ面白いのである。真面目で実直に仕事をこなしている半沢が、上司の、融資先の、そして金融庁の役人の悪意ある工作によって絶体絶命のピンチに陥れられる。不正融資や粉飾決算などの問題が全部、半沢のせいにされる。ああ、もう負けそうだ。どうなるの。でもなぜか、半沢は持ち前の行動力と洞察力、そして神がかった幸運で乗り切ってしまう。しかも彼を追いつめたほぼ全員が破滅する。ああ、今まで見ていなくて、堺雅人さんごめんなさい。

 いや、わかってるよ。現実がこんなものではないことは。これが、冷や飯を食い飽きたサラリーマンの白昼夢だってことはさ。信頼できる部下、信頼できる同期、信頼できる頭取と連携して、嘘と不正がまかり通る世界を正す。時には格闘しても悪に勝つ。でもね。心にしみるんだよね。つまり僕も社会人になり、あれやこれやで十分に傷ついてきた、ということなのか。

さてさて、無粋なことに、どうして『半沢直樹』がここまで面白いのかを自分なりに分析してみた。研究者の悲しい性である。で三つの理由があるんじゃないかと考えた。1ハードボイルド・ミステリーとしての完成度の高さ、2魅力的な人物造形、3平成経済史がよく分かる作り。

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世界文学の21世紀

都甲幸治

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究...もっと読む

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