岸見一郎 /古賀史健
第二夜 vol.3 青年は戸惑う。「不幸であることが武器になる!?」
「私は学歴が低いから、成功できない」などと言うのは、何も因果関係のない〝見かけの因果律〟にすぎず、本当のところは、「成功できない」のではなく「成功したくない」のだと喝破する哲人。ここから対話のテーマは、「劣等コンプレックス」が持つもう一つの側面である「優越コンプレックス」の話へと進んでいきます。聞き慣れない言葉、「優越コンプレックス」とは、いったい何か? 第二夜の議論も、盛り上がってきました——。
劣等感が反転したとき
青年 それはそうかもしれませんが……。
哲人 さらに、学歴に劣等コンプレックスを抱いて、「わたしは学歴が低いから、成功できない」と考える。逆にいうとこれは、「学歴さえ高ければ、わたしは大きく成功できるのだ」という理屈にもなります。
青年 ううむ、たしかに。
哲人 これは劣等コンプレックスの持つ、もうひとつの側面です。自らの劣等コンプレックスを言葉や態度で表明する人、「AだからBできない」といっている人は、Aさえなければ、わたしは有能であり価値があるのだ、と言外に暗示しているのです。
青年 これさえなければ、自分もできるのだと。
哲人 ええ。劣等感についてアドラーは「劣等感を長く持ち続けることに我慢できる人は誰もいない」と指摘しています。劣等感は誰もが持っているものだけれども、いつまでもその状態を我慢することはできない、それほど重たいものだと。
青年 んん?
哲人 ひとつずつ理解していきましょう。劣等感がある状態、それは現状の「わたし」になにかしらの欠如を感じている状態です。そうなると問題は……。
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この連載について
岸見一郎 /古賀史健
「世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる」――古都のはずれに、そんな持論を語る哲学者が住んでいました。人間関係に苦悩し、人生の意味に悩む「青年」は、到底納得することができず、その真意を確かめるべく哲学者(哲人...もっと読む
著者プロフィール
株式会社バトンズ代表/ライター。1973年生まれ。一般誌やビジネス誌で活動後、現在は書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、実用書、ビジネス書、タレント本などで数多くのベストセラーを手掛ける。著書に『嫌われる勇気』(共著/岸見一郎)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、インタビュー集に『16歳の教科書』シリーズなどがある。
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。古賀史健氏との共著『嫌われる勇気』では原案を担当。