書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
六本木の片隅で
今はフリーライターとして生活時間めちゃくちゃ、頭ボサボサ、足取りフラフラの日々を送っているが、そんな私でも東京・六本木で働いていた一時期がある。10年以上前の話だ。地下鉄の六本木一丁目という駅の近くで、六本木ヒルズなどのある繁華なエリアまでは徒歩10分ちょっと。メインの六本木と違ってかなり閑静な一角で、周りにはスペインやアメリカの大使館があったりした。
そんな場所で働いていて、仕事が終わって飲みに行くとなったら、例えば上司たちは六本木の繁華街に繰り出すらしかった。しかし、六本木の居酒屋事情は、どうも自分の金銭事情に照らし合わせてみると割高なものに思えた。いや、今はきっと安い価格帯の店も増えていると思うし、その頃も同僚たちが「少し歩くと安い店がある!(そう言っておすすめされたのが「民酒党」というすごい名前の店だった記憶がある)」と教えてくれたりはしたのだが、毎日気軽に寄れるような店はなかなか見つけられないでいた。
そうはいっても一日椅子に座っていて疲れて、少しでもパッと華やかな気持ちで飲んで帰りたい。それでなんとなく始まったのが、会社のすぐ近くにあるコンビニ前で飲んで帰るという会だ。会と言っても、私一人か同僚がせいぜい多くて2人。コンビニの前にはちょっとした広場とベンチがあって、そこに座ってコンビニで買った発泡酒や缶チューハイを飲む。つまみはスルメやベビースターラーメン。六本木の片隅で夜な夜なそんな時間を過ごしていた。
そうやって路上で飲んでいると、たまに「へーなにそれ、外で飲むの?いいね」と、オフィスでは緊張してそれほどしゃべれなかった他部署の社員が参加してくれたりして、しかもその場ではみんな平等というか、ただの友達のように接することができた。
メインは路上飲み
私は仕事が本当にできなくて、その会社でも何をしていたかというと、月に数回発行される会社のメールマガジンを一人で書いて配信するのと、オフィスでうっすら流れるBGM用のCDを毎月一回選んで買うという、なんだそれという役割。メールマガジンの読者は大していなかったし、会社のBGMも結局みんなイヤホンして各自で好きな音楽を聴いていたのでなんの意味もなかった。今思うとのん気な役割なのだが、とにかく肩身が狭く、もうそろそろさすがにクビかな……と不安な毎日だった。そんな感じだったので、同僚と楽しく会話できて、しかも大してお金もかからず、また明日もやろうと思えばできる、そんな路上飲み会は、私にとって解放感にあふれた場であった。
それから数年後、勤め先が変わって渋谷で働いていたのだが、相変わらず居酒屋で飲むのは週に1回か2回ぐらいで、メインは路上飲みだった。渋谷の町に数カ所ある公園のベンチで、やはり近くのコンビニで買った酒とおつまみを飲んでいた。寒い季節にはおでんを買って数人でダシを回し飲みしたり、ベビースターラーメンの袋を開けてそのままポットのお湯を注いでスプーンで食べるというスタイルが同僚たちとの間で流行したりした。
一度、いつもの公園で飲んでいたら、空に飛行機でも星でもないような光が見え「うわっ!UFOでしょ絶対!」とときめいたことがある。その日、ちょうど東京でシンディ・ローパーがコンサートをしていて、それを知っていた同僚が「たぶん、あれはシンディの力だと思う」と言い、今思えば何言ってるんだか一切わからないが、その時は「そうだよ!きっと!」と盛り上がった。外で飲んでいると変なテンションになるものだ。
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