寿司ネタの王様と言えば、みなさん何を思い浮かべますか?
悩ましいところですが、ぼくはウニを推させていただきます。
舌にとろける甘み、コク、旨味そして後味のわずかな渋み……ウニはあらゆる寿司ネタの中でもトップクラスの味わいだと確信しています。
寿司ネタランキングでも常に上位を守り続けている人気ネタなのも当然。
しかし、欠点もあります。
その際たるものは……やはり、価格でしょうか。
ちゃんとした品質のものならば、ひとパック1000円を下回ることはまずなく、上を見るときりがありません。安物を買うと状態が悪くなっていたり、保存料であるミョウバンの臭いがきつすぎて美味しく食べられなかったりすることも……。
というわけで、食べたければ懐が寒くなる覚悟をしないといけないわけですが、野食家たるものできるだけエンゲル係数を上げたくはない。
しかし、ウニそのものは海に行けばいくらでも見つかりますが、ほとんどの地域では漁業権が設定されているので自分で手に入れることはほぼ不可能です。
一体どうすればいいのか……。
答えは簡単、ウニの代わりに「ゴホンガゼ」を採ればいいのです。
ヒトデとウニは近い仲間なのだ
ゴホンガゼの「ガゼ」とはウニのこと。ゴホンは「五本」、これは腕の本数を指します。つまり「腕が五本あるウニ」ということになるのですが、何のことかおわかりになりますでしょうか。
答えはこちら!
確かに5本
そう、ヒトデです。
なんでウニの話をしているのにヒトデがいきなり出てくるんだ! とお怒りのひとに説明すると、まずウニとヒトデはともに「棘皮動物」というグループに含まれており、互いに近縁と言えます。
そしてさらに、ヒトデもウニと同じように食用にすることができるのです。
ちゃんと食用にする文化も存在しています。前記のゴホンガゼという地方名も、ヒトデ(マヒトデ)を食用にする熊本・天草地方における呼び名なのです。分類学が発達していない時代からこのように呼びならわされてきたほど、ウニとヒトデは近い食材なのだと言えます。
ヒトデを食べてみよう
というわけで実際にヒトデを食べてみましょう。
しかし、その前にまずは食べられるヒトデについて知らなくてはなりません。
天草で食用にされているのは、マヒトデと呼ばれる種類のもの。全国各地に棲息しており、黄色みが強いことからキヒトデとも呼ばれます。ときに大量に発生し、アサリやカキを大量に捕食してしまうため漁師さんには嫌われています。
我々も、食用にするのはこのマヒトデだけにとどめておいた方が良いでしょう。というのも、ヒトデの中には海底の小動物を捕食し、彼らが体内に持っている毒成分を自らの体内にため込む習性を持つものがいるからです。代表的なところでは、トゲモミジガイというヒトデがテトロドトキシン(いわゆるフグ毒)を持っていることで知られます。不要なリスクを冒さないためにも、食用の実績があるマヒトデだけを食べるようにした方が無難です。
それから、ヒトデは体内に重金属をため込む習性があるので、水質が悪い場所のヒトデは種類を問わず食べない方がいいと思われます。
みんな同じ仕掛けで釣れた
マヒトデは全国の浅い海に棲息し、磯遊びなどで容易に捕まえられます。あるいは釣りをしているとよく針に掛かってきます。
海底に貼りつき、ゆっくり動きながらゴカイ類などの餌を探す彼らは、とくにカレイを狙った釣りにおける最強の外道のひとつ。釣れども釣れどもヒトデばかりで、釣り場で発狂しそうになっているおじさんをよく見かけます。そういうおじさんに頼んで分けてもらうというのも手かもしれません。
いずれにしても入手難易度は非常に低く、費用もほとんどかかりません。食べるにはもってこいと言えるでしょう。
しかし、一年中食用にできるわけではありません。食べられるのは、体内の生殖器が大きくなる真冬〜春にかけて。それ以外のシーズンは可食部がほとんど存在しません。
旬のぷっくり膨らんだヒトデが手に入ったら、まずはたっぷりの湯で茹でましょう。
びっくりするほど泡が出ますが、これはヒトデが持つサポニンという成分によるもの。生の状態ではこのサポニンが舌に引っかかり、エグみを感じてしまってとても食用になりません。
ちなみにサポニンは洗剤の成分のひとつでもあるので、茹でるのに使った鍋は自然にきれいになります。茹で汁で洗濯したらきれいになるかもしれません(したことないけど)。
10分ほど茹でたら取り出し、粗熱をとってから、両手でグッと開くようにして外皮を割ります。
可食部をスプーンなどでかき出せば食べる準備は完了。
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