<体験>
モノは盗まれるし朽ちていく。でも、体験は尽きない。
誰からも奪われたりしない。
会社の経営が成功していくなか、人間関係だけでなく、モノへの執着も切り捨てられるようになった。
中谷君とのシェアハウス時代は、普通の若者並みにマンガやゲームなどを、たくさん持っていた。引っ越すたびに捨てていったが、やはり若いので、何やかんやと娯楽品は買い集めてしまっていた。
けっこう頻繁に買い続けていたのは、バイクだ。
東京に出て最初に買ったのは、ヤマハのFZR250。塾講師のアルバイトで貯めたお金で買った。たしか50万〜60万円だったと思う。
そのときは、初めてのバイクを買えて、めちゃくちゃ嬉しかった。
だが、1カ月ほどで盗難に遭ってしまったのだ。
東大の駐車場に停めていた。ある日、帰ろうと思ったら、バイクはきれいに姿を消していた。
すごいショックだった……その後、1週間ほどしたら近所で見つかった。盗まれたのにラッキー! と思ってしまった。
けれどカウルとかのパーツがなくなっていて、どこのバカの仕業か知らないが、本当にムカついたし、がっかりした。
その後、バイト代でまた新しいバイクを買った。
バイクは好きだった。出かけたり、バイトへ行くのに便利で、知り合いとツーリングに行くのが、楽しかったのだ。
2台目はヤマハのGSX─R400だった。
オールシルバーの車体で、すごく格好良かった。世代的に僕は、しげの秀一さんのマンガ『バリバリ伝説』のど真ん中だった。たぶん子どもの頃から、心のどこかにバイク乗りへの憧れがあったのだろう。
その後、大学3年のときに車を初めて買った。三菱のランサーだ。
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