BL進化論 セクシュアリティの歴史、BLの未来

〆切直前のBLマンガ家の記録 『百と卍』紗久楽さわの場合

文化庁メディア芸術祭マンガ部門で、優秀賞に輝いた紗久楽さわさんの『百と卍』。江戸後期の浅草を舞台にしたこのBL作品は、どのように生み出されているのでしょうか。前回に引き続き、紗久楽さんにその制作過程を語っていただきました。今回はとくにこだわったという濡れ場のシーンと、〆切直前のスケジューリングについても伺っています。

作画の気合いはデータ量に反映される!

溝口彰子(以下、溝口) 前回に続き、紗久楽さわさんに『百と卍』での制作過程について伺います。こちらは、第2巻に収録されている第15話で、卍が千に「てめェ… 男が好きだろ?」と図星を刺されるシーンのミニネームです。


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紗久楽さわ(以下、紗久楽) 「卍の喉からグッと声が漏れて」のところは、あるこだわりがあったんです。江戸時代の火消しの人たちは、腹掛けという衣装をよく着用しています。今も浅草のお祭りなんかでは着ている人を見かけますが、結構えりがきついらしく、着ているうちにどんどん上にあがってきて、首が詰まるというのを聞いたことがあるんです。それを知って、「腹掛けが後ろに引っ張られて首が詰まるシーンを描いてみたい!」と思っていたんですね。


『百と卍(2)』より ©紗久楽さわ/祥伝社 on BLUE comics

雲田はるこ(以下、雲田) じゃあ、腹掛けが引っ張られる場面だけは最初から決まっていたんですね。それと、千のほうのエピソードもすごいですよね。「モノが勃たないと彫り物が見えない」なんて。

溝口 こちらも早い段階から決めていたんですか?

紗久楽 そうですね。もとになったエピソードは、落語の枕で圓生さん(三遊亭・六代目)が語っていたことです。たしか、こんなお話でした。誰の彫り物が一番見事か競う大会で、参加者全員すごい彫り物をしているのだけど、蓋を開けてみると、一見どこにも彫り物がないように見えるお坊さんが優勝した。「なんであいつが優勝したんだ?」と訝った人が彫り物を見せてもらうと、なんと勃起した局部に彫ってあり、「あ、これはたしかに優勝ですわ」と納得する、というオチです(笑)。

雲田 それだったんですね! 当時はそういう人も実在したのかな(笑)。

紗久楽 その落語のなかでは、蟻とか蜘蛛とかの小さい彫り物を……。

雲田 「勃った瞬間に彫りこんでいた」っていうお話ですよね(笑)。

紗久楽 千の彫り物は、「亀頭に一匹 見事な“鵺(ぬえ)”」と大掛かりなやつですが、まあ、「マンガだからいいか~」と思って(笑)。


『百と卍(2)』より ©紗久楽さわ/祥伝社 on BLUE comics

雲田 千さん、カッコいい……!

溝口 このシーン、千の「てめェ… 男が好きだろ?」のセリフの後、上のミニネームの段階では「俺を追う その目でわかる」と言っていますが、次の段階のネーム(下図)ではそれがなくなっていますね。


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そして最終型、完成した原稿では、「“欲望”がダダ漏れだ」というセリフが新たに追加されています。ここはかなり試行錯誤されたのでしょうか?

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雲田はるこ /紗久楽さわ /溝口彰子

BL愛好家で研究者の溝口彰子さんが、2019年4月にホスト役をつとめた「フューチャーコミックスPRESENTS~BL進化論 サロン・トーク~VOL.2」の模様をcakesでもお届け! ゲストは『昭和元禄落語心中』や『いとしの猫っ毛』の...もっと読む

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climnon 千さんの鵺の彫り物の話などしてます! https://t.co/XUgaw8gbRx 約1ヶ月前 replyretweetfavorite