「同性愛に反対」のキャラが変化していく
溝口彰子(以下、溝口) 今回は『いとしの猫っ毛』(※1)において、最初は男性の同性愛を受け入れられなかった女性キャラたちが、それをどんなふうに受け入れていったのか考察したいと思います。
※1『いとしの猫っ毛』:2010年から『BE・BOY GOLD』(リブレ)で連載中。幼なじみで恋人の美三郎(みいくん)のもとへ上京してきた恵一(恵ちゃん)。みいくんが管理人をしている「またたび荘」が愛の巣になるかと思いきや、個性的な住人に囲まれてなかなかラブな空気になれず。ふたりが真の恋人になるには、乗り越えなくてはならないハードルがあった。
具体的には、みいくんのおばあさんと、亡くなったお母さんですね。おばあさんは、ふたりが暮らすアパート「またたび荘」の大家さんをしています。最初は「ゲイなんて」「同性愛なんて」と反対し、恵ちゃんをみいくんの彼氏だとは認めませんでした。
『いとしの猫っ毛』より ©雲田はるこ/リブレ(※「沢田」は恵ちゃんの名字)
雲田はるこ(以下、雲田) 怖い顔(笑)。
溝口 怖いですね。おばあさんは、みいくんの父である息子をすでに亡くしていることから、孫のみいくんにははやく結婚して子どもを作ってほしがっている。だから、「あとはいいお嫁さんね」と、“男性カップルなんてダメに決まってる”と釘を刺したりします。上のコマは、上京した恵ちゃんとみいくんがアパートの玄関でいちゃいちゃしていたのを見て、怖い顔で割って入るシーンです。また同じお話のなかで、はっきりと恵ちゃんに「美三郎(みさぶろう、みいくんのこと)と別れなさい」とも言っています。
雲田 そうでしたね。
溝口 私がすごいなと驚いたのは、こんなことを言いつつも、おばあさんは恵ちゃんの「いいところ」をどんどん褒めるんですよ。「お茶淹れるの上手ね」「玄関掃除したの、アナタ? あんなにピカピカなの久々に見たわ」「あなたみたいな住人なら大歓迎だわ」などなど。恵ちゃんが、みいくんしか家族がいない彼女に「もし二人なのがさみしかったら 僕のことも孫だと思って下さい…」と言ったことに対しては、「この歳で孫が増えるの? ステキな話ね」なんて返したりもする。でもその直後、「ほんと、アナタいいお嫁さん貰えるわよ」と、そこに戻ってしまうんですが……。それでも、“お話もしたくないわ”と完全に拒絶するのではなく、抵抗感はありつつも目の前にいる沢田恵一という人間の、自分がいいと感じるところは具体的に認めていく。その複雑な描き方は、とても感動的でした。
ホスト役の溝口彰子さん
雲田 ありがとうございます。みいくんと恵ちゃんが住む「またたび荘」というアパートを作っていくときに、みいくんと恵ちゃんの関係に対して、序盤は「みんなが大歓迎」という感じで描いていました。でも、それだけでいいのかな?と思い、ふたりの関係の障害となるおばあちゃんを出したんですよね。でも、私は意地悪な人を描くのがすごく苦手なので、最初のうちはこの人をどうしたらいいのか全くわからなくて……。描いているうちに、なんだか辛くなってきちゃったんですよ(笑)。「この人、どう説得すればいいんだろう」ってずーっと 考えながら描いてたんです。たしかに家のことなどを考えると頭が痛いと思うんですが、おばあさんは、恵ちゃんを嫌いになる理由がないんですよね。だから、「だんだん恵ちゃんのことを好きにならせればいいんだ」って途中で気づいたんです。
溝口 なるほど、そうなんですね。
雲田 おばあちゃん、恵ちゃんのことはすごく気に入っていて、気に食わないところといえば「男である」というその一点だけ、なんですよね。だから、「みいくんと恵ちゃんが好き同士でいることが、なんでおかしいことなのかな?」と、そこにだんだんと気づいていくという、おばあちゃん自身のストーリーを描けばいいんだな、と気づいてからは楽しかったです。
「血のつながりにこだわらない家族」がテーマのひとつ
溝口 ひ孫の顔が見たいと思っていたおばあさんが、それを諦めるという転換点では、またたび荘に住む小学生のケンタくんが「おばあちゃんが産んだら!?」と言いますよね。それもすごく絶妙だと感じました。「残念だけどおじいちゃんが生きてればね~」とおばあさんが返すと、「ぼくがお嫁さんにしてあげるよー!」って言うでしょ(笑)。そこで一旦、おばあさんのこだわりが解けたようにも読めました。
『いとしの猫っ毛』3より ©雲田はるこ/リブレ