BL進化論 セクシュアリティの歴史、BLの未来

BLって、いつか卒業しなければいけないの?

BL愛好家で研究者の溝口彰子さんが、2019年4月にホスト役をつとめた「フューチャーコミックスPRESENTS~BL進化論 サロン・トーク~VOL.2」の模様をcakesでもお届け! ゲストは『昭和元禄落語心中』や『いとしの猫っ毛』の雲田はるこさんと、『百と卍』の紗久楽さわさん。初回は、3人が愛してやまないBLの魅力や、雲田さん・紗久楽さんに共通する“大好物”カップリング、さらにドラマ『おっさんずラブ』の特大ヒットによって変わったBL事情に迫ります。

BLマンガ家とBL研究者が語る、BLのこれから

溝口彰子(以下、溝口) 今日は「BLのこれから—セクシュアリティの歴史、BLの未来」と題して、BLの研究者であり愛好家でもある私が、雲田先はるこ先生と紗久楽さわ先生という第一線で活躍されているマンガ家さんをお招きし、皆さんとライブで語り合いたいと思います。 まずは、おふたりの紹介から。


昭和元禄落語心中(1)

雲田はるこさんは、『いとしの猫っ毛』『新宿ラッキーホール』をはじめ、数々のBL作品を世に送り出すとともに、一般誌「ITAN」で連載された『昭和元禄落語心中』も高く評価されました。昭和の落語界を舞台に、美貌の落語家をめぐる芸と愛の極地を描いたこの作品は、2013年度の文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を始め、講談社漫画賞(一般部門)、手塚治虫文化賞新生賞など、数々の受賞もされています。アニメ化とドラマ化もされ、大変話題になりました。

雲田はるこ(以下、雲田) 2018年はBL総まとめの原画展や画集を出していただいたり、BLのほうでも読者さんに楽しんでいただけたり、お会いできたりする機会が多くて嬉しかったです。今日はBLのお話で呼んでいただけて嬉しいです。よろしくお願いいたします。

溝口 続いて、紗久楽さわさんは、江戸時代を舞台に陰間(※1)あがりの青年と元火消しの恋を描いた『百と卍』が大変な話題になり、2018年度『このBLがやばい!』第1位、「BLアワード2018」でも「次に来るBL部門」第1位を獲得され、各賞を総ナメにされました。加えて、2018年度の文化庁メディア芸術祭マンガ部門で、優秀賞を受賞。この賞に輝いた初めてのBL作品として、歴史に名を残しました。
※1 陰間:江戸時代中期、男性や女性を相手に男色を売った男娼の総称。


百と卍

紗久楽さわ(以下、紗久楽) メディア芸術祭では、審査員のみなもと太郎先生にすばらしいコメントをいただき嬉しかったです。「古代ギリシャ時代から男色はあたりまえのものとして存在しており、日本においても当然古代からあった」「これは貴重な書物であり、我々も『平然と』読むべきなのである」と。

雲田 素晴らしい祝辞でしたね。BL作品がマンガ全般を対象にした賞を獲ったことは、私もすごく嬉しかったです。

本屋で「再会」を果たしたふたりの馴れ初め

溝口 このイベントを企画したきっかけは、ちょうど1年前の「BL進化論サロン・トーク」第1回、作家の岩本薫さんとマンガ家の中村明日美子さんをお招きしての会に、紗久楽さんがお客さまとして来てくださったことでした。


ホスト役の溝口彰子さん

紗久楽 純粋にトークが聞きたくて参加したのですが、イベント後に溝口さんにご挨拶させていただいて、そこから交流が始まりました。

溝口 そのなかで、紗久楽さんと雲田さんが仲良しだというお話を聞きつけ、今回おふたりを招いてのサロン・イベントを企画しました。おふたりはかなり古いお付き合いだということですが、いつからお友達だったのでしょう?

雲田 だいたい15年くらい前だと思います。もちろんふたりともデビュー前でしたね。

紗久楽 はい。同じ作品で同人誌を作っていたことがきっかけで知り合ったんです。イベントで隣のサークルだったりしましたね。その頃、私はまだ高校生でした。

雲田 でしたねえ(しみじみ)。その後、しばらくお付き合いがない時期があったんですが、ふたりともデビューしたあとで、それぞれ本屋さんでお互いの作品を見つけて、「この絵はあの人に違いない!」ってなったんですよ。「あれ? もしかしてさわさん!?」って。

紗久楽 私も、「この絵好きだ~」と思ってマンガを買って、よくよく読むと見覚えがあって、「もしかして雲田さん?」となり。

雲田 それがちょうど同じくらいの時期だったんです。私が買ったのは紗久楽さんのデビューコミック『当世浮世絵類考 猫舌ごころも恋のうち』(2009年)。そのあと、Twitterで紗久楽さんを発見してDMをして、また連絡をとるようになりました。


当世浮世絵類考 猫舌ごころも恋のうち

紗久楽 Twitterがまだ黎明期の頃ですね。

雲田 そのあたりで、紗久楽さんは東京に出てこられたんですよね。

紗久楽 マンガ家になるということで上京しました。それからは、雲田さんのおうちにお泊りに行かせていただいたり、一緒に歌舞伎を見にいったりと、仲良くしていただいています。

「月攻め・太陽受け」カップリングが大好物

溝口 実は、今日の3人には共通点があるんです。ずばり、広い意味でBLの「先祖」のひとつともいえる『摩利と新吾』(※2)が大好きだということです。やっぱり、世代は違っても名作は読み継がれることを実感して、嬉しかったです。


摩利と新吾 1

※2『摩利と新吾』:1977年から84年まで、「LaLa」に掲載された木原敏江による少女マンガ。旧制高校を舞台とし、幼なじみで親友である摩利と新吾が、さまざな経験をしながら成長する青春物語。ふたりの間に育まれる愛情と友情が読みどころ。向かって左が摩利、右が新吾。

雲田 大好きです!

紗久楽 私は今日、気合いを入れて『摩利と新吾』Tシャツで来ました!

溝口 あっ、人気の高い、紫乃(しの)先輩Tシャツですね(笑)。おふたりは、ともに執筆されているBL誌「on BLUE」の対談でも『摩利と新吾』に言及されていて、「きれいな攻めとでっかい受けが最高」とおっしゃっていました。

雲田 そう! 私たち、カップリングの趣味があまりメジャーではないと思うんですが、奇跡的にすごく合うんですよね。

溝口 (笑)。『摩利と新吾』だと、摩利が「攻め」で、新吾が「受け」だと思うのですが、でも新吾って、とくに大きくないですよね? なぜ「でっかい受け」カテゴリに入るのでしょうか。

雲田 「でっかい」とは、体積の問題なんです。背にしろ、幅にしろ、ちょっとぽっちゃりめというか。

紗久楽 密度、といったほうがいいでしょうか。

雲田 そう、「密度があるほうが受け」というのが好きなんです。摩利くんと新吾くんを比べたら、どちらかというと……。

紗久楽 新吾くんのほうが中身が「ぎゅっ」としていますよね。

溝口 なるほど。体型という意味ではふたりとも細身ですが、「体積」と「密度」ということでいえば、たしかに新吾のほうが「ぎゅっ」としていますね。私はまた、作中で「おひさま新吾」とみんなから呼ばれるような「おおらかさ」を指す「大きさ」だと思っていました。

雲田 それもあります。摩利が「月」で新吾が「太陽」ですね。『摩利と新吾』もそうですが、私も紗久楽さんも、「月攻め」の「太陽受け」というカップリングが好きなんですよね(笑)。

紗久楽 私、今日はネックレスとピアスが月と太陽モチーフで、全身でカップリングにおける信仰をあらわしています!

溝口 信仰(笑)! そういう意味では、『百と卍』の百さんも、『いとしの猫っ毛』の恵(けい)ちゃん(下画像、向かって右の人物)も太陽属性ですね。恵ちゃんは、体積という点では大きくないけど、おおらかで温かいところが。


いとしの猫っ毛

紗久楽 作中で、摩利と新吾が芸者の格好をするシーンがあるのですが、ふたりとも肩幅があるし身長も高いので、読者の女の子たちに「こんなでかい芸者いるかよ!」なんて思わせる描写なところも、すごくいいんですよね……!

雲田 ねえ。「男の子っぽさを隠しきれない女装」って、すごく好き!

溝口 BLでの女装って、ほんとにそれが基本ですよね。キャラクターは美青年だから女装してもきれいではあるけれど、女装することでより男の子っぽさが際立つという点は、ごく一部の「男の娘もの」をのぞいて、ほとんどの作品に共通していると思います。

雲田 新吾くんなんかはまさにそうですよね。可愛いさいっぱいですよね。

BLは、いつか“卒業”しなければいけないもの?

溝口 私見では、おふたりにはさらに共通点があり、それは一般誌でも活躍されているということです。雲田さんの『昭和元禄落語心中』は大ヒットして数々の賞をとり、アニメもドラマも大成功でした。そうなるともうBLは描かないのかなと思いきや、そんなことは全くなく、同時に『いとしの猫っ毛』『新宿ラッキーホール』、短編集『ばらの森にいた頃』など、BL作品も続々と出されています。2008年のデビュー作もBLでしたよね。


窓辺の君

雲田 はい、短編の「窓辺の君」という作品です。

溝口 一部には、デビュー作はBLだけど、一般誌で人気が出てからはBLを描かなくなる作家さんもいらっしゃいますよね。そういう方たちにとっては、「BLは通過点であり、いずれ卒業するもの」という意識があるのかもと思っています。

雲田 BLは卒業……しなくちゃいけないのは嫌です(笑)。卒業、できないかもしれませんね。DNAに刻まれている業のようなものなので……。

溝口 名言(笑)。私も、そういう雲田さんのことが頭にあったので、以前雑誌の取材があったとき、「最近は、“BLは卒業するものではない”という意識の作家さんが増えているんですよ」とお話ししておきました。でも、「いつ卒業するんですか?」と聞かれることはないですか?

雲田 よく聞かれます。私としては聞かれるたびに少し悲しくなります。しなきゃいけないのか……って(笑)。

溝口 「卒業したくない」というお気持ちが確認できて、安心しました(笑)! 2018年、ドラマ『おっさんずラブ』が大ヒットしてから、「全然商業BLを知らないけど、『おっさんずラブ』にはハマった」という読者向けの特集記事の取材を受けることもあります。それで先日、ある週刊誌から来た質問状に「『昭和元禄落語心中』というBL作品もありますが」と書いてあったんです。「いや、そもそもBLじゃないですし……」と(笑)。基本的に、作品がBLであるかどうかは、掲載媒体がBL誌か否かで分ける、というお話からしました。

雲田 それは……庇ってくださってありがとうございます(笑)。

溝口 これに限らず、世の中には以前から“『きのう何食べた?』をBLだと言いたい症候群”もありましたよね。よしながふみさんの『何食べ』は青年誌「モーニング」に連載されていて、BLではありません。


きのう何食べた?(1)

ゲイカップルが主人公なので勘違いする方がいたのかも、とも思いますが、『落語心中』にはゲイも出てこないですよね。なのに、なぜBLだと呼ぶ人がいるのか? 自分なりに考えてみた結果、それまで全くBL的なものに触れてこなかった人が、今まで自分が読んだことがなかった男性同士の艶っぽい絆が描かれた世界を知ると、つい「これはBLだ」と思ってしまうのかな、と。

雲田 たしかに、私も以前女性週刊誌さんからBL特集に使わせてほしいという依頼が来たときに「『落語心中』はBLではないので、ジャンルは分けてほしい」とはお願いしたのですが、編集部的にはBLということにしたかったのか、どんどんBL風味の扱いになっていくんですね。『落語心中』は、BLだと期待して読んでしまう方がいるとそのご要望には応えていないので申し訳なくて。最終的には「匂い系」みたいな形にしてくださった記憶があります。

紗久楽 きっと、男と男の間に流れる“どデカ感情”について、今現在一般的にもわかりやすく当てはめてみようとすると、「BL」しか表す言葉がないのかもしれませんね。

溝口 三浦しをんさんが、既存の少年マンガでライバル関係やチームメイト関係にある男性キャラふたりをとりだして、ふたりが恋愛関係にある物語を二次創作することについて、「こんだけ熱けりゃ体も重なる」理論を提唱していらっしゃいますが、もしかして、『落語心中』をBLだと言い張る方たちは、読みながら八雲と助六の恋愛を妄想で補完しているということでしょうか?

雲田 だってみんな、男性の熱すぎる友情が大好きじゃないですか。濡れ場のある無しだけですよね。そもそもケンカシーンと濡れ場はよく似ていますしね。

溝口 私はその取材を受けた際、「BLとそれ以外との区別をちゃんとしてください」と、原稿チェックを一所懸命がんばったんです。「BLではない作品をBLって書いてしまうと、作家さん方に呆れられますよ?」と。ただし、読者のなかには非BL作品のことをBLだと思って楽しむ方もいるようなので、「“BLとして楽しむ”と書くのはOKです。“として”というのがキーワードです」と強調しました。記事中で『落語心中』に言及している部分も、「雲田さんの描く男同士の艶っぽい関係性が好きな読者のなかには、雲田さんのBL作品も読むようになる方もいるようです」というふうに赤字を入れたんですが……。

雲田 そうでしたか! ありがとうございます(深々)。

溝口 しかしながら、この「BL以外の作品もBLと呼びたい」風潮は、まだ続きそうではあります。

取材・構成:的場容子

<次回、11月13日(水)更新予定>

この連載について

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雲田はるこ /紗久楽さわ /溝口彰子

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chiruko_t 月×太陽わかる( ˘ω˘)  1日前 replyretweetfavorite

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