【登場人物】
富永京子
立命館大学産業社会学部准教授
1986年生まれの社会学者
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
対案を考えろ問題
清田 社会運動の研究者である富永京子さんと、「恋愛とわがまま」について語っていくこの短期連載も最終回となります。今回も引き続きワイワイ恋バナしていきたいなと!
富永 よろしくお願いします。
森田 前回の「わがままの首尾一貫性」のエピソードを聞いていて思ったんですけど、ちょっとしたことで相手との価値観や思想のズレを感じることってよくありますよね。
ワッコ 映画を観た時とかに、「この人とは価値観が合わないな」と思うことありませんか?
一同 ある、ある。
ワッコ 前に知り合いの男性とある映画の話していたときに、「あの映画は戦争が楽しいっていう映画だよね」と言われて、わたしが感じていたのと全然違うと思って、ちょっと無理だなって思いました。
清田 あとさ、「なんでお前は司令官目線でこの映画観てんだよ?」みたいなのもない?
ワッコ あ〜わかります。
清田 映画に限らず、意見や立場の取り方が「どこから目線なの?」という問題ってあると思うんです。これは女友達から聞いた話なんですが、痴漢の問題をある男性と話したときに、「痴漢被害にあう女性が減らないから、電車の全車両に防犯カメラを設置した方がいい」という自分の意見を伝えたらしいんですね。そうすれば、男性が恐怖を感じている冤罪も防げるしいいじゃないかと。そしたらその彼が、「それ、JRが予算的にキツイんじゃないかな」と言ってきたらしいんです。なんだよその、謎のJR目線はっていう。
富永 社会運動バッシングによく出る、「対案を考えろ」というやつですね。
清田 JRの社員でもないあなたが、なぜJRの予算を心配するのか……。
森田 論点をずらしてるよね。
清田 これ、なんなんですかね? こういう人ってかなり多いと思うんですけど。
富永 コストとベネフィットって、比較的誰にでもわかるシンプルな理屈ですよね。だから、何かを抑圧しようとするときに一番持ち出しやすい。
清田 なぜその理屈を持ち出すのか、気になっちゃいますよね。
森田 JR目線の彼はおそらく、そもそもカメラを設置することに対してどこか気に入らないと感じていて、「カメラまで設置しなきゃいけないことなのかな?」と考えてるんじゃないかな。
清田 根っこにあるのは個人的な嫌悪感だよね。カメラをつけてほしいという女性の意見は、事実として女性が男性から痴漢被害を受けているからなんだけど、彼は多分、「男性」として括られているなかに自分も含まれているように捉えていて、責められている感じがしたんだと思う。
ワッコ 誰もあなたを責めてるわけじゃないんですけどねっていう……。
清田 突き詰めていけば「俺を痴漢扱いするな!」という感情的な反発なんだと思う。でもそれをはっきり言語化できないから、JR目線で「予算的にどうなのかな」とポーズを取る。「全車両にカメラ設置するのは反対!」と明確な立場を表明する方が、まだいいと思うんですけどね。
富永 俺個人の意見としてそこで言うのは、勇気が要りますよね。だからJR目線とか常識目線を借りちゃうというのは、気持ちとしてはわかりますよ。
10日で別れてしまった彼氏とのズレ
森田 恋愛観や家族観が違うとか、そういうもっと個人的なことも恋愛ではズレがちですよね。
ワッコ これは自分の話なんですけど、わたしの両親、特に母親はかなり特殊な人で、電車の中でナプキンを替えちゃうような人でして……。それもあって、両親とはほとんど連絡を取ってないんです。
富永 『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』で、お母さんの強烈なエピソードを紹介されてましたよね。本当にすごい話で、あそこだけでもこの本を読む価値があると思いました。
ワッコ ありがとうございます(笑)。でもそれが原因で、恋愛がうまくいかないと思うこともあって……昔付き合っていた男性が家族の絆を大事にしている男性で、付き合って3日くらいで茨城にある彼の実家きてほしいと言われたんです。
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