第六回】天然温泉で二度寝酒? (後編)

赤羽に到着後、駅前の立ち食い蕎麦屋で小腹を満たして、いざ、朝湯酒開始!! と意気込んでお風呂に入れば、お店の前に立てかけてあった看板とは全く違う入浴設備。騙されたのか!? おっちょこちょいなのか!? TVドラマ「孤独のグルメ」でお馴染みの久住昌之氏がおくる、「風呂」×「グルメ」の痛快エッセイ!

 コスモプラザに着いた。入口は地下だ。外から螺旋階段で下りる。ご宿泊は三三〇〇円、深夜宿泊二九五〇円。昼間宿泊二四〇〇円。サウナ利用料金は、三時間一三〇〇円。これだ。寝過ごしたおかげで、十時まで三時間を切ってしまったが、タップリ使える。
 オジサンの店員のどこかビシッとしてないところが、やっぱりサウナだ。男性専門丸出し。その地下一階にそのまますぐロッカールームがあって、この早い時間に客は何人もいた。これから出社だろうな、当然。こちとら、風呂入って寝るんだもんねー。
 で、天然温泉とやらはどこかいな、と思ったが、それらしきものは見当たらず、だた「浴場」と書いてあって、銭湯ぐらいの浴槽と、水風呂とサウナ がふたつあった。からだを洗って、湯につかると、目の前になんだか巨大な機械があって何やら稼働している。縦型の旧式エアコンみたいなものだが、車のラジエーターのように細く薄い金属の襞のようなものが上から下までついていて、そこをお湯が絶え間なくつたっている。なんだろうこれは。
「まさか」と思って、機械をよく見たら、そこに小さなプレートが貼ってあり「人工炭酸温泉」と書いてあった。え、えええ、そうなの!? 人工? ちょっと待って、どっか別のフロアに天然温泉があるんだよね。と思いながら、だんだん「……そんなもの、ない。ここのことだ、絶対」と急速に確信していった。
 それにしてもこの機械、相当古いぜ。あの木の看板、すごく新しかった。あれにまんまとやられた。
 横のほうの壁に、何やら効能書きみたいなのが貼ってある。読む気にもならない。
 ちょっとガッカリ。外には人工温泉なんて書いてなかった。なんだ。ダマされた。これじゃ取材原稿が、と思いながら、思っているそばから、自分の早とちり、おっちょこちょいという気もしてきて、なんだかおかしくなってきた。なに早起きして赤羽まで来て、サウナにダマされてんだ。馬鹿だ。
 これも風呂の効能だろう。御馳走を食べながら怒る人がいないように、いい湯につかって怒る人はいない。
 むしろ、早くも、いいトホホネタじゃないか、ラッキー、と思っている自分がいる。早起きは三文の得だな、とまでポジティブになっている俺がいる。

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ふらっと朝湯酒

久住昌之

三度TVドラマとなることが決定した「孤独のグルメ」の原作者久住昌之が、新たに提案するのが“ふらっと朝湯酒”。その名の通り、朝からお風呂入って一杯飲るという試みを、やってみようというエッセイである。朝から飲むからって、♪朝寝朝酒朝湯が大...もっと読む

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コメント

qusumi ですね。 約5年前 replyretweetfavorite

abekeisuke1976 まるます家、楽しいですよねー > 約5年前 replyretweetfavorite