生命式

山本さん、ごちそうさまでした」

山本の生前の希望どおり、さまざまな料理を用意するべく、生命式の準備があわただしく進んでいく。ようやく整えて、テーブルに並んだ料理は、ふつうの生命式とはひと味違う品ばかり…

『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、世界的な注目を集める村田沙耶香さんの最新短編集『生命式』より、表題作「生命式」を全文公開。脳を揺さぶるかつてない読書体験を約束します!

業者がかなりの部分まで作業してくれているといっても、やっぱりまだ山本の形が残っている。よく一緒にビールを乾杯した山本の毛深くて力強い腕を思い浮かべながら、私は包丁で肉をそぎ落としていた。
落ち込んだときこの手に背中をぽんと叩かれたこともあったし、酔っぱらって足元がおぼつかない私を車道から引っ張ってくれたこともあった。喫煙室で山本の腕に灰を落としてしまったときは、「熱いだろおっ」と情けない顔で赤くなった腕に息を吹きかけていた。
そうだ、月曜日だって、この手は私の背中を励ますように叩いてくれていた。その大きくて優しい腕が、今は骨付き肉になってまな板の上にある。
「私、人肉を調理するのって初めてなんですけど、大きいんですね。たまに生命式で見かける生のお肉は、もう薄切り肉になっちゃってたから」
「あら、そうなんですか。そうそう、やっぱり鳥なんかとは違って大きいですよね。人肉はね、牛乳で臭みを取るといいんですよ。煮る前に、少し浸したほうがいいかもしれないですね」

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今や世界が大注目!芥川賞作家・村田沙耶香自身がセレクトした12篇。文学史上、最も危険な短編集!

生命式

村田沙耶香
河出書房新社
2019-10-16

この連載について

初回を読む
生命式

村田沙耶香

「夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで」…葬式と違い、国の補助が出る生命式。生命式とは、死んだ人間を食べながら、男女が受精相手を探し、相手を見つけたら二人で式から退場してどこかで受精を行う式で……。 『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、...もっと読む

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