「事務所のゴリ押し」という雑な表現
早いものでこの連載はあと数ヶ月で300回を迎えるが、これまで取り上げた芸能人や所属事務所から直接的に叱られたことはない。無論、重大な事実誤認などを指摘されれば対応しなければならないが、そもそも自分で考えたことを書いているだけなのだから、あちらから何かを言われる筋合いはない。これまで、トークイベントなどで、「ところで、cakesの連載は、事務所に連絡取っているんですか?」と二度ほど聞かれたことがあり、すっかり当惑してしまった。取っているはずがない。取る必要などない。
自分と同じように、芸能界で仕事をしているわけではない人が、会話に「事務所の力」を持ち込むことがある。もちろん、芸能人がいわゆる「バーター」でテレビに出演することもあるだろうし、出せば売れる写真集やカレンダーを出版する版元が、当事者のスキャンダルを掴んでも掲載を見送る、なんてケースもあるだろう。かといって、その存在自体を、「事務所のゴリ押し」という評定のみで済ませたり、人気が持続している状態を「事務所が強いから」と急いで分析したりする傾向が好きではない。
怒らせたって構わない
誰それが今の位置にいるのは事務所の力じゃなくて実力だよ、なんて主張したいわけではない。事務所の力はあるのだろう。でも、あれこれの議論を、とにかくそれのみで終わらせてしまう風潮が、日に日に安定感を増している気がする。別の媒体で、ある芸能人についての単発記事を書いた後、「今、事務所にチェックしてもらっています」とのメールをもらった時には、頭を抱えてしまった。この手の条件反射的な「事務所を怒らせてはいけない」という考えは、あらゆるところに存在している。ぶっきらぼうな言い方をすれば、別に、事務所を怒らせたって構わないはずである(もちろん、事実を歪めた形での誹謗中傷は論外)。
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