男らしさ」の呪いを解く、アナ雪のドレスを着て踊るパパ

いま、「おっさん」はどこへ行くべきなのか? 時代に合わせて生まれつつある「あたらしいおっさん=ニュー・ダッド」たちの姿を見つめながら、これからの「父性」「男性性」を軽やかに考えるエッセイ連載第3回。子どもとの時間を全力で楽しむダッドたち、そして『フレンズ』のロスについて。「男らしさ」の呪いを断ち切る魔法とは?

イラスト:澁谷玲子

全力で子供と向き合うキュートなダッドたち

当然の話だけど、おっさん好き(僕)のインスタグラム・アカウントはカッコいいand / or かわいいおっさんの写真を眺めるためにある。セルフィー好きなおっさんはけっこう多い。それに、ダディ系好きのためのゲイの出会い系アプリのアカウント@daddyhuntをフォローしておけば、半裸のイケダッドの画像がバンバン流れてくるし……。

でも、僕は微エロ系よりもやっぱりニュー・ダッドのアカウントに萌えてしまう。僕のイチオシアカは人気インスタグラマー、シャロム・ソロモン@sbsollyだ。髭もじゃでぽっちゃり体型(ダッド・ボッド!)の彼はその愛くるしい見た目を活かしつつ、ひたすら娘や息子とのコスプレ写真をアップしている。あるときはサファリ風、あるときはライフガード、あるときは原始人風……。娘ちゃんが寿司に扮してダッドは横で寿司を食らうというシュールなものもあった。衣装もアイデアも毎回凝っている。何より父子の姿がひたすらキュートで、見ているだけでただただ幸せな気持ちになってくる……。要は、子どもとの時間を全力で楽しむダッドに僕はメロメロなのだ。

もう少しニュー・ダッドの「ニュー」の部分に踏みこんだ話をすると、いまの時代に父として子どもたちにどういう態度を示すべきかSNSで発信するダッドたちもいる。

たとえば、カリフォルニアに住むパパのミッキー・ウィリスは、息子が欲しがったリトルマーメイドの人形—「女の子のオモチャ」—をプレゼントし、「自分の子どもたちに、好きな人生を選ばせたい」と動画で語った。その動画はたちまち拡散され、多くの称賛と共感の声を集めたのだった。

あるいは、アメフト中継時のCMで娘とバービー人形を一生懸命遊ぶパパたちの姿が放送されると、その影響で#DadsWhoPlayBarbieのハッシュタグで娘と人形で遊ぶ写真がSNSで一般からもたくさん投稿されることとなった。ニュー・ダッドは古いジェンダー観に囚われないし、何だったら本気でバービーで遊ぶ、ということだ。

なかでも(僕判定で)最強だったのが、ノルウェーのコメディアン、オルヤン・ブロエ。『アナと雪の女王』のエルサのドレスを欲しがった息子デクスターくんのためにドレスを購入、そして自分の分のドレスも買って、ママが出かけている間にいっしょになって踊りまくったのだった。フェイスブックにアップされたその動画は100万シェアを超える大反響となった。「レリゴー」の歌声に合わせてキラキラと舞っている父子を見ていると、正直、僕なんかは涙ぐんでしまう。

https://www.facebook.com/watch/?v=497870387408254

たぶん、日本でもジェンダー観が更新されたことによって、男の子から「女の子のおもちゃ」を取り上げたり、女の子がブロックで遊ぶことに難色を示したりする男性はどんどん減ってきていると思う。エルサのドレスを息子に買ってあげるお父さんもたくさんいると信じたい。だけどオルヤンの場合のポイントは、「自分も着て、踊ったこと」。それに尽きる。ドレスを着るのはいくらなんでも恥ずかしいとか、そういう自分のなかのちっぽけな男のプライドなんて子どもの喜びの前ではどうでもよくて、いっそのこと自分もエルサになって子どもの気持ちを全身全霊で理解しようとする、その姿勢である。

「SNS用にいいカッコしやがって」というイチャモンもあるようだが、そんなものはチャーミングなダッドたちの前ではノイズにすらならない。というか、これはSNSにありがちな承認欲求の表れではなく、小さなところから世界を変えていこうという前向きなメッセージだ。

『フレンズ』に見る「男らしさ」の呪縛

それでひとつ思い出したのは、90年代の大ヒット・ドラマ『フレンズ』のメイン・キャラクターのひとりであるロスのことだ。数年前にネットフリックスで配信開始されたことでミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭生まれ)が『フレンズ』と出会うことになったのだけど、いまの感覚で観ると『フレンズ』はダイヴァーシティの観点でかなりキツい内容になっている。主人公たち6人が全員白人なのもそうだし、いまではアウトな同性愛嫌悪ネタ、性差別ネタがわりと気軽にバンバン出てくるのである。ある意味、現代のいわゆる「ポリティカル・コレクトネス」以前を体験できて興味深くはあるのだけれど。

で、ロスだが、これがまあ、せこくて嫉妬深くてわがままで……見ていてイライラさせられるヤツなのである。そこが笑いどころなんだろうけど、僕なんかはそのダッド度の低さにいちいち引っかかってしまう。たぶん女子人気も低そう。

『フレンズ』は当時の「大人になれない世代」をカジュアルなコメディのなかに描くことによって絶大な共感を得たドラマだから、ロスの子どもっぽさはある意味、当時のファンの本音を体現していたのだろう。べつに大人になんかなりたくない、と。ただ、少しずつでも成長し大人になっていったおちゃらけ男チャンドラーに対し、最後の最後までロス(とジョーイ)は子どものままだったよなあ……というのが率直な気持ちだ。

それに、ロスに関してはダッド関連の象徴的なエピソードがある。彼はレズビアンの元妻との間にベンという息子がいて、いっしょに育てているのだけれど、あるときベンがバービー人形で遊んでいるのにロスはパニックになってしまう。そんな姿を見た元妻キャロルと彼女の現パートナーであるスーザンは、「大人になったらゲイ能界に入るのが心配?」「女2人で育ててるせいだとも?」(それぞれ字幕ママ)と言って詰め寄る。そのときはごまかすロスだが、ベンとふたりになった途端、バービーを取り上げ、G.I.ジョー(兵士)の人形で遊ばせようと躍起になる……という、「男らしさ」を巡るパニックを笑う回になっている。

別のエピソードではこんなのもある。ほかのメイン・キャラクターであるレイチェルとの間の子ども、エマを育てるために(ロスがかなりモテるという設定が僕には解せない)、子守りの面接をするのだが、そこに「感受性豊かな」男性サンディーがやってくる。フェミニンな感性を持つ彼をレイチェルはすぐ気にいるのだけど、対するロスは「男の子守りなんて変だよ!」とまたもパニック。面接中に「ゲイなの?」と尋ねる失礼ぶり……というか、いまでは訴えられるレベルの発言をバンバンする。いやあ、ロス、マジで古臭くて頭の固い、ヤな男ですね……とならずにいられない回なんだけれど、『フレンズ』はそのオチにひとひねり加えている。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん

木津毅

「おっさん=悪いもの、古いもの、いまの社会の悪しき土台を作ったもの」とされている今日この頃。ではいま、「おっさん」はどこへ行くべきなのか? 時代に合わせて生まれつつある「あたらしいおっさん=ニュー・ダッド」たちの姿を見つめながら、これ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

RyoAster |木津毅 | 11ヶ月前 replyretweetfavorite

mezonette そういうことであれば僕はけっこうニュー・ダッド(安心するなー!) https://t.co/A9EcrkhUMz 11ヶ月前 replyretweetfavorite

dona_OHO_ak アーンもう全員読んでくれましたか… https://t.co/iqWmpbVDSA 11ヶ月前 replyretweetfavorite

magnumber https://t.co/lRicUYLndu 11ヶ月前 replyretweetfavorite