狂気すら感じる「アートコミックス」
ゆうこす 私はもともと愛さんのファンなんです。確認したら2015年の私のTwitterに、愛さんのキャラクターシールをゲットして喜んでいるツイートがありました。少なくともそのころにはすでに大ファンだったわけですね。
愛☆まどんな(以下、愛) どんなきっかけで、私のこと知ってくれたんですかね?
ゆうこす 最初は何だったのか、まるで覚えていないけれど、何年も前から愛さんのSNSも追っかけてますよ。でも実際にお会いしたのは、『白亜』が出てからですよね。
同じ時期に私も『共感SNS 丸く尖る発信で仕事を創る』という本を出したので、ある日の昼下がり、青山ブックセンターにサイン本をつくりに行っていたんです。売場に目をやると、すごく魅力的な女の子の顔が表紙になった漫画があって、見ればあの愛☆まどんなさんの本だった!
あわわ、かわいい! って騒いでいたら、書店の方がこれから愛さんがサイン本をつくりに来店しますよって教えてくれました。それで売り場で待ってて、初めてお会いできた次第です。
愛 そこまで『白亜』に反応してくれたなんて、うれしいなあ。
ゆうこす めっちゃ感動しました!!! 私、漫画が大好きで、月に50冊はコミックを買うんですけど、こんなに響くお話と絵はめったにないです。はかない話ですよね。キャラクターもみんなかわいくていいなあ。
愛 お気に入りの子っていました?
ゆうこす 私はやっぱりヒロインのカズノが好きですね! あと中身はもちろんのこと、お話が盛ってある器としての本もすごい。つくりが凝っていて、いろんな仕掛けがしてあります。まずはそもそも、漫画の中に絵が入っているのはほんとうに驚いた。
愛 そう、各章ごとに、私がキャンバスに描いた絵画作品を印刷したページが挟み込まれています。そのページは紙をものすごく上質なものに替えて、キャンパス地に近い手触りにしてあるんですよ。絵画ページの裏面も、実際の絵画のキャンバス裏を写真に撮って印刷したり、きりとり線を入れて本当に絵として飾れるようにしてあったり……。
ゆうこす すごい……。本の厚みの部分に、蛍光ピンクで色が塗ってあるのも、よく目立ってますよね。いいなあって。
愛 この部分にこの色をつけるには手塗りしか無理なんですって。特別に腕の立つ職人の方が、その人にしかできない技術で塗ってくれたそうですよ。
ゆうこす ものづくりのこだわり方に、ちょっと狂気すら感じますね。私も、いろんなものづくりをしたりPRしたりする仕事をしていて、ほんとはこういうものをつくりたいなと思っても、お金や時間の都合で妥協してしまう部分はどうしても出てくるのはよくわかっています。この本には、妥協がない。とことん突き詰めてあって、その熱量にあてられたのか、読みながら汗かきましたよ(笑)。そうだ、それに『白亜』関連のグッズもやっぱりかわいいですよね。
愛 いま『白亜』の公式ホームページでブラックライトの発売を始めたんですよ。これを使って『白亜』を読むと、じつは隠れたお楽しみが得られるという。
ゆうこす あ、それ、言っちゃっていいんですか!?
愛 誰も気づかないので、ちょっとヒントを出すことにしたんです(笑)
「漫画を描くってほんとにたいへん」と実感
愛 2015年に個展をひらいたとき、山田玲司先生が見に来てくれたんです。「私も昔、漫画描いてみたかったんですよね」という話をしていたら、「じゃ俺がネーム描くから、漫画描こうよ」と言ってくださって、じゃあやろうかとその気になってしまった。
同じ絵を描くことだといっても、アートとしての絵画を描くのと、漫画を描くのとでは全然ちがいます。苦労しましたけど、「アートコミックス」というかたちで一冊を完成させられたのはすごい達成感です。漫画って、人に関心を持ってもらうための入口としてすごく優れているし、大きい可能性があるなと改めて感じましたね。
ゆうこす 私にかぎらず、漫画はみんな大好きですもんね。私は小学生のころからコミック誌「ちゃお」ばかり読んでる〝ちゃおっ子〟で、いつも『こっちむいて! みい子』や『あさりちゃん』を読んでました。同時に、父の趣味を受け継いで『本気!』『ミナミの帝王』、あと『スラムダンク』なんかも。いまも同じ調子で幅広く読んでます。愛さんも昔から漫画好きだったんですか?
愛 読むほうは人並みかな。小さいころから絵を描くのは好きだったから、漫画も描いていましたよ。でも、どうしてもお話が途中で終わっちゃう。ストーリー考えるのは好きだけど、描き進められないんですよ。それで、これは向いていないなとあきらめていたというのが実際のところです。
漫画家ってほんとにたいへんだなと、やってみて実感しましたよ。同じ絵を描く作業でも、漫画と絵画じゃ全然違っていて、絵描きは「決めの瞬間」を切り取って一枚に仕立てればいいけれど、漫画は流れを描いていかないといけない。それに、白黒だけで表現するのも難しかった。私は色が自分の気持ちを表現するように絵を描いているので、色を奪われる事態が初めてで、「これは地獄だ……」と思いましたよ(笑)。
ゆうこす 漫画を描いたことで、絵に変化はあったんですか?
愛 自分の絵にすごく大きい影響があると思うんです。そもそも絵が明らかにうまくなっていますしね。『白亜』は前から順に描いているから、読み進めていただくとすぐわかると思うんです。私、だんだんうまくなってるでしょう?
ゆうこす 前から順番に描いていたんですね。最初から上手な絵だった気もするけど……。
愛 そうそう、第一話はあとから描き直したものが載ってるんでした。全話描き終わってから並べてみると、一話があまりにも見るに堪えなかったから、3回くらい描き直しているんです。
ふだんは、絵を練習することなんて絶対にしないんですよ。アートでは、いつだって新しい気持ちでキャンバスに向き合ったり、思っていることを色にしてぶつけたりするのが大事なので。でも漫画を描いていると、うまくなっていくのを自分でも実感して、ああ人って成長するものなんだなと感じましたね。
アートを買うと、日常はこう変わる
ゆうこす でも最初はアートって、衣食住の足りている人のためのもの、というイメージでした。そこは知的で厳かな空気が流れる世界で、無知なヤツは入ってくるなと言われそうな……。それこそ作品を観たときに「かわいい!」という感想しか言えないようじゃ、相手にされないんじゃないかとちょっと怖かったです。
だから、愛さんの作品を観たときにすぐ「かわいい!欲しい!」と思ったけど、私なんかが買っていいんですかという気持ちが先に立ってしまった。愛さんから、もちろん喜んでと言っていただけてうれしかったです。
愛 そういう心配って、あんまりしなくていいんじゃないですかね。少なくとも私は、「アートを知らない人が買うなんて」と思ったことなんてないです。作品をつくってはいる私だってアートのことなんて全然わからないし、展示を観に行くときは好き嫌いで選ぶだけだし。難しいことを考える必要はどこにもないと思いますよ。
ゆうこす そう言ってもらえると、もっとアートに触れたい! って思えるようになります。
愛 私たちはみんな、難しいことを知らなければアートはわからないし、そこに参加もできないという思い込みを、美術教育を通して身につけてしまっているのかもしれない。山田玲司先生は言っていますよ。誰だって空はきれいだなって感じるのと一緒。解説が必要なアートなんて死んでる。観た瞬間、説明不要で「いいなあ」と声が出るようなものこそ、生きてるアートなんだって。
ゆうこす はあー。へえー。
愛 山田さん、いいこと言いますよね!
ゆうこす 愛さんのこの絵は、リビングのすごく目立つ場所に立てかけてあるので、部屋に入るたび真っ先に絵が目に飛び込んできます。買ったばかりのころは「わ、家に絵がある!」と観るたび驚いたり喜んだりしてました。最近は、夜になって部屋で考えごとをするとき、絵の前にずっとぼおっと座っていることが多いんですよ。絵って、観ながらいろいろ考えさせられたりもするし、逆に気持ちを無にしてくれることもあるんですね。
何よりも、こんな美少女を自分の部屋に招くことができたということ自体が喜びです。愛さんはこれからも、かわいい女の子を描き続けてくれるんですか?
愛 そうでしょうね。人に飽きられようがおかまいなく、同じモチーフを描き続けることは、私の作家人生を通して変わらないと思う。
変わらずやり続ける、それこそがすごいことだと私は思うので、絵を死ぬまで描くのはまちがいない。いまは今年も来年も展覧会がもう決まっているので、それに向けて新作を描くぞ! という決意で心がいっぱいです。
ゆうこす 同じことやり続けるのはすごいと思うんですけど、私は自分のプロジェクトを立ち上げたり起業したりブランドつくったりという体験の中で、ゼロからイチをつくる楽しさを知ってしまった。だからこれからも、いろいろ生み出してはまた壊すというのを、繰り返すことになるんじゃないかなと思っていて。
「ああ最近、幸せだな」と感じるようになると、いかんいかん、このままじゃ! と、安心しきった気持ちを捨てて新しい場所に飛び込みたくなるような性質に、いつのまにかなってしまった(笑)。だからこれからどっちに行くか、自分でもよくわからない。まあ、美少女やかわいいものに目がないという好みは、いつまでも変わらないと思うんですけどね。(了)
(ライティング:山内宏泰 撮影:伊澤絵里奈)